りぼんの読書ノート

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バディ・ボールデンを覚えているか(マイケル・オンダーチェ)

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20世紀はじめのニューオーリンズで「ジャズ」という新しい音楽を生み出した、天才コルネット奏者のバディ・ボールデンの演奏を録音した音源は全く存在せず、たった1枚の写真を除いては、伝説しか残されていないとのこと。

本書は、写真と録音という20世紀の記録手法に間に合わなかったミュージシャンの人生の断片をコラージュ的に積み上げて、ひとつのイメージを作り上げた作品です。ビリー・ザ・キッド全仕事に近いですね。決して伝記ではありません。

ニューオーリンズの床屋で働きながら、街のうわさ話を集めたタブロイド紙を発行し、夜になるとバンドで演奏し、絶え間のない即興演奏を非常に大きな音で披露しながら暮らしていたボールデンは30歳の時に精神分裂病に罹り、人々から忘れられたまま、亡くなるまでの25年間を病院ですごしたそうです。

ノーラという女性と不安定な夫婦生活を過ごし、後に自殺する写真家ベロクと付き合い、突然家を出て行ってロビンという女性と2年間暮らした後に、友人の警察官ウェッブに連れ戻され、久しぶりにパレードで演奏をしている最中に発狂し、その後二度と楽器を手にすることはなかったという、本書に描かれた彼の人生は、史実なのか、伝説なのか。それとも虚構なのか。妻や友人の語るエピソードやインタビューには矛盾もあるのです。

ブルースを吹き、ブルースより悲しい讃美歌を吹き、讃美歌より悲しいブルースを吹く。神と悪魔が闘っているように聞こえるという彼の演奏は、どこで終わったのでしょう。讃美歌のところで吹きやめたら神の勝ち・・ブルースのところで吹きやめたら悪魔の勝ち・・

2011/8