りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ピアニスト(エティエンヌ・バリリエ)

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2人のスイス人音楽評論家が、中国人美人ピアニストを巡って大論争を繰り広げます。年配の評論家は彼女の演奏を「奇跡」と呼び、若手の評論家は「機械的に正確なだけの猿真似」と呼ぶのです。難曲を弾きこなすテクニックの解説や、ホロビッツやグールドら実在のピアニストの表現性と比較しての評論は専門的であり、理解できる範囲を超えています。

しかし論争をよく聞ていると、どちらの評論家もそれぞれ「西洋音楽至上主義」なんですね。前者は「西洋クラシックの絶対的・普遍的価値を前提に東洋人でも習熟可能」とし、後者は「絶対的価値には疑問を呈しながらも西洋音楽は西洋人だけのもの」とするのですから。

2人の論争は、公開のブログから私的なメイルに場所を移して一段とエスカレートしていきます。彼女を支持する年配評論家は女好き(中国人の女性ピアニストは若い美人なんですね)であることが暴かれ、ピアニストと結婚していた若手評論家には興行上の打算があることが明らかになってくるのです。純粋無垢な批評などあり得ないというのが本書の結論。

著者は、アジアの国々で西洋クラシック音楽が愛好されていることを知って驚いたそうです。次々と登場するアジア人の若手音楽家の活躍に加えて、アニメの『のだめカンタービレ』や、村上春樹の『スプートニクの恋人』が、本書をインスパイアしたとのこと。ちなみに、中国人美人ピアニストのモデルはユジャ・ワンだそうです。

2013/9