りぼんの読書ノート

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スコルタの太陽(ロラン・ゴデ)

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「長靴に例えられるイタリア半島のかかとにあたるプーリア地方のスコルタに生きた、宿命の一族の5世代に渡る物語」というと、いかにも地元に愛着を持った人物の作品のようですが、本書の著者はフランス人です。ギリシャや中東やアフリカなどを思わせる不条理世界を描いてきた劇作家による長編小説です。

 

長い間言葉を発していなかった老婆は、なぜ教会の司祭に一族の物語を語り始めたのでしょう。15年間服役した後に村に戻り、ずっと思っていた女と一夜の愛を交わした後に、村人たちによって殺された荒くれ者の祖父。神父によって助けられながら名うての悪党となって不正な金を蓄えた父親は、2人の息子と1人の娘に何も残すことなく、全ての財産を教会に寄付して亡くなりました。

 

そして物語の中心である3人の兄弟姉妹の物語が始まります。アメリカ移民を試みて入国を拒まれ、幸運で得た金で煙草売りの許可証を手に入れ、後には正当な商売や不正なビジネスにも手を染め、それぞれに幸福な結婚をして、次の世代を生み育てていく物語。やがて煙草屋は火事で失われ、命を落とした者もいるけれど、今は老婆となった末娘のカルメーラの記憶は、司祭を経由して孫娘に伝わっていくのでした。

 

どことなく神話的な物語ですが、ギリシャやローマの神話がモチーフとは思えません。どことなくアフリカ風であり、アメリカ先住民の物語のようでもあり、マカロニウェスタンや「ゴッドファーザー」のようでもあるのです。さまざまな要素が融合されているのでしょうが、本書の形式も不思議です。多くの人物が登場する大河小説でありながら、老婆のひとり語りの戯曲のようにも思えてくるのです。

 

2021/12