りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

風の丘(カルミネ・アバーテ)

イメージ 1

イタリア最南端、長靴形の半島の土踏まずにあたる地域では、イタリア語とは微妙に異なるアルバレシュ語が話されているそうです。15世紀にオスマンに支配された、アルバニアから逃れてきた移民が住んだ地域だとのこと。しかしそこは、古代にギリシャ人が作った植民都市でもあったのです。

本書は、その地域の丘に暮らすアルクーリ家の人々の、4代に渡る物語です。第1次大戦を経験したアルベルト、ファシストや地主と闘ったアルトゥーロ、考古学者となったミケランジェロ、そして語り手のリーノ。そして彼らが娶った、ソフィア、リーナ、マリーザ、シモーネという、その時代を象徴するかのような伴侶の女性たち。

もうひとり、この地に古代都市が眠っていると信じて、一族と接触を図り続けた考古学者パオロ・オルシを忘れてはいけません。彼の存在が、それぞれの時代の人々の物語を、古代ギリシャの時代から延々と営まれてきた物語の一部であると思わせてくれるのです。パオロ・オルシ氏は実在した著名な考古学者であり、シラクサにはこの人の名を冠した州立考古学博物館もあるとのこと。

物語としてもよくできています。ラストの「丘の崩壊」が、古代都市遺跡の存在と同時に、冒頭の「謎の銃声」に秘められた一族の秘密を明らかにするという構成は、見事です。本書は最初から最後まで、「悠久の歴史」と「個人や一族の物語」を重ね合わせにしていたのですね。イタリアのカンピエッロ賞の受賞作です。

2015/6