りぼんの読書ノート

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西洋中世奇譚集成 魔術師マーリン(ロベール・ド・ボロン)

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アーサー王伝説」にも登場する、中世最高の魔法使いマーリンの物語。ジェフリー・オヴ・モンマスの『ブリテン年代記』で最初に言及されて以降、さまざまな物語で描かれてきたマーリン像について、集大成を試みた物語。感想を書くというより、覚書として纏めておきましょう。各部のタイトルは、私が勝手につけました。

「第1部:マーリン誕生」
敬虔な母親が夢魔に襲われた結果生まれたマーリンは、過去と未来を見通す不思議な力を有していたのですが、なぜ邪悪な心から解放されたのでしょう。ついでながら、母の無罪を勝ち取ってくれた司祭ブレーズは、マーリンのエピソードを書き記す特権を得ることができました。

「第2部:ブリタニアとの関わり」
ブリタニア王位を簒奪した家令ヴェルティジエから、塔の建設が進まない理由を問われた偽占師たちは、苦し紛れに「父なし子」の殺害を勧めます。自ら「父なし子」と名乗り出たマーリンは、塔が建たないのは地下に棲む竜のせいだと解き明かしますが、それは簒奪者の運命を暗示していたのです。

「第3部:ブリタニア王への支援」
簒奪者ヴェルティジエに殺害された父王の仇を討つべく立ち上がった遺児、パンドラゴンとユテルの兄弟に助力したマーリンは、王と王弟の指南役に望まれます。

「第4部:異教徒との戦い」
マーリンの助力でサクソン人との停戦を実現した王と王弟は、次いで異教徒との戦いに巻き込まれます。ソールズベリーでの決戦に勝利したものの、マーリンは王の死を暗示していたのです。

「第5部:円卓の登場」
亡き兄王の後を継いだ弟ユテルのために、マーリンは円卓の設立を提案します。勝手に空席に座ろうとした無資格者は、円卓の力によって排除されるのでした。ストーンヘンジもマーリンが建てたものだったのですね。

「第6部:ユテル王の不倫」
家臣のティンタジェル公の妻に恋して苦しむユテル王から相談を受けたマーリンは、恋の助力を約束するものの代償を求めます。それは高くついた不倫でした。王は想いを果たしたものの、怒ったティンタジェル公との闘いの後に死去。生まれた息子アーサーは、マーリンの世話で素性を明かされないまま農夫によって養育されることになります。

「第7部:アーサー王の登場」
マーリンは、ユテル王の後継者選出は神に委ねるべきとして、教会前の階段に剣を刺しますが、誰も抜くことができません。やがて成長したアーサーが、その剣エクスカリバーを抜くことになる話は有名ですね。この後は、「アーサー王の物語」となっていくところで本書は終了。

話す赤ん坊、宙を舞う火竜、僕による巨石運び、王位を巡る争いなど、ケルト神話をルーツとするエピソード満載の、楽しい中世ロマンでした。それにしても、互いに矛盾する異本が数ある中で、よく纏めたものだと思います。

2016/10