りぼんの読書ノート

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アーサー王宮廷のヤンキー(マーク・トウェイン)

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H・G・ウェルズの『タイムマシン』の6年も前、1889年に書かれた本書は、「タイムトラベル」による「歴史改変」を扱った最初の作品として有名ですが、本質的には当時の文明批判の書であり、社会風刺の色濃い内容のものです。

コネチカット生まれのヤンキー、ハンクが昏倒から目覚めた所は中世イングランド。そこはアーサー王と円卓の騎士たちの時代でした。折りしも現われた騎士の捕虜となってしまい、あわや処刑の直前に思い出したのは、たまたま知っていた日食の時間。さらに雷と火薬の知識を利用して古い塔を倒したハンクはマーリンとの魔法合戦にも勝利し、一躍「大魔法使い」の座を獲得します。

アーサー王の信頼を得て「ボス卿」と名乗り、19世紀の科学知識を用いて産業を興していくのみならず、学校を作って若者を啓蒙し、貴族と教会の圧政を覆そうとするのですが、それはやりすぎだったようです。反動勢力の陰謀によって内戦が勃発し、王妃グィネヴィアとランスロットの不倫で互いの信頼も揺らいでいたアーサー王と円卓の騎士たちは、次々と戦死。ハンスは残された若者たちと、地雷や機関銃で武装した要塞に立て篭もるのですが・・。

本書で直接批判されているのは、貴族性の腐敗、教会の圧政、騎士道の欺瞞などの中世イングランド社会なのですが、どうやら暗に風刺されているのは、著者が考えるアメリカ南部社会、ひいては古いヨーロッパのありかたのようです。

偏見も大きいように思いますが、マーク・トウェインのリベラルな面がストレートに現れている作品ですね。愛弟子に自分の本名・クレメンスを与えているところからも、うかがい知れます。クレメンスが唱える「猫を君主に戴く立憲君主制」は笑えますが、意外と今でも本質を衝いているのかも・・。

2011/9