りぼんの読書ノート

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みをつくし料理帖5 小夜しぐれ(高田郁)

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シリーズ第5作となる連作短編集ですが、物語の背景としては、以前書いたことを繰り返しておきましょう。でも、少しずつ進んではいるんですよ。

大阪の料亭で働いていた天涯孤独の少女・澪は、没落した主家のご寮さん・芳とともに江戸にやってきて、小さな料理屋の主人・種市に気に入られて料理を任されています。上方仕込みの薄味料理の腕に似合わず、澪に降りかかってくる問題は「濃い」のですが、料理を作ることはできても、それだけではどうにもならないことばかり。それでも不器用に料理を作り続けることによって、周囲の人々の善意に助けられながら成長していく澪の物語は、旬の食材を使った料理のように味わい深いものがあります。

迷い蟹-浅蜊の御神酒蒸し
つる家の主・種市と亡き娘おつるの過去が明かされます。種市が離縁した妻・お連の悲しい孤独な人生は気の毒ですが、自業自得でしょう。でも、どこかに「救い」があって欲しいようにも思えます。

夢宵桜-菜の花尽くし
澪は吉原「翁屋」から、上客を師手にした花見の宴の料理を頼まれます。そこは、澪の幼馴染みで今は花魁になっているあさひ太夫を抱える大店なんですね。澪が考えた、金に糸目をつけない客たちをもてなす「贅沢な料理」とは・・?

小夜しぐれ-寿ぎ膳
何かと澪と張り合っていた身勝手な美少女、日本橋伊勢屋のお嬢様の美緒でしたが、恋してからはすっかり可愛く健気になりました。でも、父親が婿に選んだ相手は、美緒が恋心を寄せる医師・源斉ではなく、中年の番頭だったのです。

嘉祥-ひとくち宝珠
つる屋に姿を見せるたびに澪の料理を適切に批評する謎の武士・小松原の正体は、将軍に仕える御膳奉行でした。彼の抱えている難題は、「嘉祥」の日に江戸城で出される新作菓子を考えるというもの。澪の料理は参考になるのでしょうか・・。

「嘉祥」とは、家康公が三方ヶ原の合戦の勝利を祈って八幡様に菓子を奉納したことから、将軍家が家臣に菓子をふるまうことが慣例となった日のことだそうです。江戸城だけでなく日本中で菓子が飛び交ったといいますから、現代のバレンタインのようですね。

2011/9