りぼんの読書ノート

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アーサー王最後の戦い(ローズマリ・サトクリフ)

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第1部『アーサー王と円卓の騎士』で円卓の騎士団の誕生を、第2部『アーサー王と聖杯の物語』で聖杯探索による滅びの始まりを描いたシリーズ最終巻では、ついに騎士団の崩壊が描かれます。

そもそも神の恩寵を受けていたはずのアーサー王と円卓の騎士団がなぜ滅びなければならなかったのでしょう。その背景にはサクソンやデーンやノルマンの侵入によって混乱を極めた中世イングランドの歴史があるのですが、やはり神の恩寵なるものは生身の人間には重過ぎるということなのでしょうか。

アーサー王がただ一度の過ちで異父姉モルゴースとの間にもうけた息子モルドレッドは、聖杯探索で半減した騎士団に潜り込み、父王に対する憎しみの心を燃やします。彼が利用したのは、王妃グウィネヴィアとランスロットの間に生まれた許されざる愛でした。神の前では不義は許されないのですね。

やがてモルドレッドの陰謀は王妃を罠に陥れ、アーサー王ランスロットを望まざる対立関係に立たせ、騎士団を二分する戦闘へと追い込んでいきます。その隙に乗じて王位を簒奪したモルドレッドと、運命の地カムランで最後の戦いに挑むアーサー王でしたが・・。

イングランドが危機に陥ったときに必ず帰ってくると言い遺してアーサー王が旅立ったアヴァロンとは、いったいどういう場所なのでしょう。『指輪物語』の最後にエルフたちやフロドが向かった西方の国アマンは、明らかにアヴァロンをイメージしていますね。

ところで「サトクリフ・オリジナル」と冠された3部作の主人公は、アーサー王ではなくランスロットであったようです。栄光に包まれた冒険、王妃との許されざる愛、息子ガラハッドに及ばなかった聖杯探求の旅、生涯の盟友アーサー王との不幸な戦闘に彩られたランスロットの生涯を通じて、宗教一色のドラマでも、安易な勧善懲悪ドラマでもない、独自の物語世界を紡ぎ出してくれています。

2012/10