りぼんの読書ノート

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アーサー王と聖杯の物語(ローズマリ・サトクリフ)

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アーサー王の宮廷キャメロットに円卓が登場してから20年。既に多くの冒険を成し終た円卓の騎士たちの前に最後の騎士として現れたのは、湖の騎士ランスロットとペレス王の娘エレインの間に生まれた息子ガラハッドでした。彼の登場とともに聖杯の幻が現れて、騎士たちは聖杯を求める最後の冒険、騎士団の崩壊に結びついていく冒険に旅出つことになります。

最後の晩餐で用いられ、次いでキリストの血を受けたという聖杯は、聖なる神秘の象徴であり、穢れのない純粋な騎士のみが触れられる存在です。王妃グウィネヴィアに禁断の愛を寄せるランスロットの聖杯探求は失敗せざるを得ず、彼に許されたのは聖杯を幻視することのみでした。

魂の救済を400年も待ち続けた王の登場や騎士たちを導く無人の船への乗船など、幾多の冒険の末に聖杯にたどり着くことができたのは、ガラハッド、パーシヴァル、ボールスの3人です。しかし最も聖杯に近づいて神秘を見届けることができた、従って最も純粋な魂の持ち主だったガラハッドは、もはやこの世で生き続けることはできません。次いで純粋な存在であるパ-シヴァルも聖杯の傍で生涯を終えることを選びます。

ボールズのみがキャメロットに戻って全てを報告し、失意のランストットは悔い改めて余生を送る選択をするのですが、半数もの騎士が命を落としたり行方不明になるという聖杯探求とは、いったい何だったのでしょう。

著者はランスロットとガラハッドの親子関係を親密に、かつ対照的に描くことによって、神秘的な気高さと人間的な葛藤に満ちた重層的な物語として描いています。その中で「神の愛」と「人間の愛」が明らかになってくるのですが、その心の意味に至るには、現世での自己犠牲によって来世での救済を得るという中世のキリスト教思想を理解しなければならないのでしょう。

ともあれ、キリスト教ケルトの伝承が入り混じり複雑で冗長でわかりにくい「アーサー王伝説」を、かみくだくように纏めてくれた著者に感謝です。やはり「サトクリフ・オリジナル」のタイトルは伊達ではありません。

2012/10