りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

掌の中の小鳥(加納朋子)

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カクテルリストが充実している小粋なバー「エッグスタンド」での会話は、加納さんが得意とする掌編ミステリ。細やかな気遣いをしてくれる女性バーテンダーや、何でもお見通しといった風の紳士と共に、謎めいた会話を楽しむ若いカップルの心は通じ合うのでしょうか。

「掌の中の小鳥」
一見クールな青年ながら自分に欠けているものを感じている圭介のもとに、かつて想いを寄せていた容子から電話がかかってきます。画学生だった容子は、自作の絵を汚された事件をきっかけにして佐々木先輩とつきあって結婚していたのです。圭介は、その事件は佐々木先輩が起こしたものと思い込んでいたのですが・・。謎が解けて、容子への不毛な想いは消えたようです。

「桜月夜」
パーティで知り合った女性を連れて行った「エッグスタンド」で、圭介は桜にまつわる不思議な誘拐事件の話を聞かせてもらいます。でも彼女はなぜ、自分の名前を明かさないのでしょう。その理由は、意外な人が意外な形で事件に関わっていたからなのです。

自転車泥棒
ついに名前を明かした紗英と喫茶店で待ち合わせていた間に、女子高生に傘を盗まれてしまった圭介ですが、その傘はちゃんと戻ってきたのです。遅れてきた紗英が見た不思議な光景と、傘の謎が組み合わさって、謎が解明されるという物語。

「できない相談」
今度は紗英の視点からの物語。幼馴染の男友達がマンションの一室を瞬時にすり替えてしまった謎は、どう解き明かされるのでしょう。その男友達は、なぜそんなことをしてみせたのでしょう。紗英も、ひとつ大人への階段を登ったようです。

「エッグ・スタンド」
従兄の婚約を祝う茶会に出席した圭介でしたが、そこで婚約指輪が盗まれるという事件が発生。どうやら、兄の婚約者を偵察に来た従妹の礼子が絡んでいるようです。

でも物語はここで終わるわけではありません。事件の謎解きを通じて圭介は、自分の本当の気持ちに気付くのです。彼に欠けていたのは何だったでしょう。女性バーテンダーに背中を押された圭介が気付いた「一番大切なもの」とは、何のことだったのでしょうか。読後感が爽やかな作品でした。

2016/10