りぼんの読書ノート

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探偵サミュエル・ジョンソン博士(リリアン・デ・ラ・トーレ)

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歴史上の人物を名探偵として活躍させる手法をはじめて用いたとされるのが本書です。18世紀イギリスの大文人で、英語辞典の編纂やシェイクスピア全集の編集の功績があるサミュエル・ジョンソン博士を探偵役に、後に『サミュエル・ジョンソン伝』を著した年若い友人のボズウェルをワトソン役に配した連作短編集。

「蝋人形の死体」
精巧な蝋人形と、行方不明となった弟子との関係は? 人骨入りの蝋人形は不気味ですが、裏の裏をかく展開が見事。蝋細工師のクラーク博士は実在の人物であり、彼の後継者がマダム・タッソーです。

「空飛ぶ追いはぎ」
ゲートを通った気配もなく、鳥のように消え去る謎の追いはぎの正体は? ジョンソン博士は囮になって犯人をあぶりだそうとするのですが・・。この時代にも有料道路があったのですね。

「消えたシェイクスピア原稿」
古書収集家が発見したシェイクスピアの未発表悲劇の上演日に、貴重な原稿が紛失した理由は? 専門家らしい謎解きでした。ストラットフォードは18世紀から、シェイクスピアを「売り」にした観光の街だったのですね。

「ミンシング通りの幽霊」
深夜ベッドの脇で娘が見たものは、絞首刑になった反逆者の幽霊だったのでしょうか。エリザベス1世の時代には、多くの家にカトリックのための隠し部屋があったのですね。

「ディー博士の魔法の石」
ウォルポール氏宅に押し入った賊が何も盗まなかったのは、「錬金術師の魔法の石」のおかげだったのでしょうか。実は「魔脳の石」には仕掛けがあり、スチュアート家のチャーリー若僭王の反乱と関係があったのです。18世紀末のイングランドはまだ、ホイッグとジャコバイトの間で揺れていたのですね。

「女中失踪事件」
元旦の夜に失踪して1ヵ月後に姿を現わした女中が、監禁犯として告発したジプシーの老婆にはアリバイがありました。はたして真犯人は、女中のカタレプシー症状を悪用した意外な人物だったのです。

「チャーリー王子のルビー」
ジョンソン博士が訪れてたスカイ島のマクドナルド家に突然やってきたのはチャーリー若僭王その人でした。若僭王はかつて先代当主に託したルビーが必要になったというのです。現当主も知らなかった秘密をジョンソン博士が解き明かします。

「博士と女密偵
アメリカ独立戦争に関する軍事機密を手に入れた女スパイの見張り役をジョンソン博士とボズウェルが命じられるのですが・・。アメリカを嫌っていたというジョンソン博士に対して、アメリカ人の著者がこっそり意趣返しを潜ませた作品でした。

「消えた国璽の謎」
大法官サーロー卿が保管している英国国璽が盗まれた事件は、その日執行される予定だった絞首刑の赦免と関係していたことを、晩年のジョンソン博士が見破ります。

時系列順に並んだ9編の作品を続けて読むと、博士の壮年期から晩年までの人生と、彼が生きた時代背景が、虚実織り交ぜて概括されているように思えてきます。視点人物であるボズウェル青年が変わらずに抱き続けた、博士への敬愛の念が伝わってくる点もさすがです。

2014/10