1.FACTFULNESS(ハンス・ロスリング)
世界の貧困は改善されていないのか。人口は果てしなく増え続けるのか。今なお女性は迫害を受け続けているのか。このような問いに対する正解率は、チンパンジーがランダムに回答した場合より低い10%程度にすぎず、国際問題に関心が高い高学歴の人々ほど間違えるというのです。いかに世界の状況は確かに良くないけれど、しかし良くなりつつあるということを正しく認識しないと、正しい改善策は選べない。思い込みの害を訴え続けた著者の遺作は、ひとりでも多くの人に読んで欲しい本なのです。
2.ジニのパズル(崔実)
在日朝鮮人三世の少女にとって、彼女を取り巻く世界が不条理に満ちているであろうことは想像に難くありません。朝鮮語も話せないまま北朝鮮の金一族を崇拝する朝鮮学校に放り込まれたジニは、2つの言語と3つの国家の間で必死に生きようとするのですが、テポドンが発射されたことで彼女を取り巻く世界は決定的に変わってしまいました。朝鮮学校の欺瞞を覆そうと、彼女はたったひとりで革命を起こそうとするのですが・・。
3.卍どもえ(辻原登)
社会的に成功した2組の中年夫婦が転落していったきっかけは、ミステリアスな女性たちの隠微な関係だったのでしょうか。それとも倫理観が欠落している男たちの欲望だったのでしょうか。日航機墜落やオウム真理教などの現代の事件や、日中戦争から中国内戦や日本の戦後復興へと続く闇歴史が絡むなかで、虚実の境界が揺らいでくるような物語でした。優れた文学作品の楽しみがデテイルにあることを知り抜いている著者は、読者の知的好奇心を四方八方に広げてくれるのです。
【その他今月読んだ本】
・スギハラ・サバイバル(手嶋龍一)
・さようなら、ギャングたち(高橋源一郎)
・ホール(ピョン・ヘヨン)
・越境者(C・J・ボックス)
・クイーンズ・ギャンビット(ウォルター・テヴィス)
・スコルタの太陽(ロラン・ゴデ)
・日没(桐野夏生)
・ふたりぐらし(桜木紫乃)
・52ヘルツのクジラたち(町田そのこ)
・この本を盗む者は(深緑野分)
・ムーンライト・イン(中島京子)
・俺と師匠とブルーボーイとストリッパー(桜木紫乃)
・みをつくし料理帖 特別巻 花だより(高田郁)
・けむたい後輩(柚木麻子)
・チンギス紀 10(北方謙三)
2021/12/27