りぼんの読書ノート

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青葉耀く(米村圭伍)

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「平成の講談師」を自認する著者の新作は退屈姫君シリーズ紅無威おとめ組シリーズと比較して、しっとりた語り口で綴られています。それもそのはず、本書のテーマはかなりリアリスティックなのですから。あくまで他の作品との比較において・・なんですが。

出雲国千歳藩の西端に位置する鳥越村にある郷蔵差配役の大月慎兵衛の息子・寅之助と、配下の矢島重三郎の息子・小太郎は、同い年の幼馴染で兄弟のように育てられたのですが、キャラは正反対。寅之助は大柄で腕力自慢ながら学業はイマイチ。一方の小太郎は成績優秀ながら細身で病気がちな少年だったのです。

こんな2人が藩校入学を許されて城下の寮で暮らし初めたことから物語は動き始めます。なぜか2人に接近してきたのは、凛々しい美女で藩校のマドンナの夏巻京と、呉服屋の娘で振袖姿が愛くるしいお鈴。実はこの2人、陰謀で殺害された双葉姫のご学友だったのですが、秘密裏に育てられていた弟の存在を聞かされていて、寅之助と小太郎のどちらかが姫の弟君とまで絞り込んでいたのです。

一方で次の藩主の座を巡る陰謀はまだ進行中であり、2人の少年は敵から付けねらわれます。しかしどちらが殿のご落胤なのか。宿下がりした奥女中の息子は寅之助なのですが、双葉姫と似ているのは小太郎のほうなんですね。さては親同士が語り合って「入れ替えっ子」をたくらんでいたのでしょうか。

こんな重大な秘密の当事者とは知らない少年たちですが、何度か命を狙われて薄々ながら真相に気付いていきます。いったいどちらが真のご落胤で、誰が味方で、誰が敵なのか。そしてついに大事件が起こるのですが・・。

「敬恩館風雲録」とサブタイトルがつけられた本書は、シリーズ化されそうです。奇想天外な物語を軽妙洒脱な語り口で進めていく「米村節」でないのは残念ですが、少年たちの友情と運命の行方がどうなるのかは気になります。少々軽めの「藤沢周平」といったところでしょうか。

2012/11