りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

スイート・ホーム(原田マハ)

元キュレーターであり『楽園のカンヴァス』や『暗幕のゲルニカ』などのアート小説の名手による、非アート小説です。料理と愛情をテーマとする、なんともハッピーな連作短編集。物語の舞台は宝塚。高台の街にある小さな洋菓子店を営む香田家を中心に、エピソードごとに彼らの親戚、常連客へと主人公が移り変わっていきます。

 

香田家の長女・陽皆は、梅田の雑貨店に勤める28歳。父親譲りの親しみやすい接客と丁寧なお辞儀を心がけて店に立っていますが、おとなしい性格で、なかなか恋人ができません。しかしある日、プレゼントを選びに来た男性客に心を奪われてしまいます。思い切って告白しようと決意した陽皆は、父に教わって彼のためにケーキを焼くのですが・・。

 

これに続くのは、「オアシスキッチン」で料理教室講師をしている未来と、既婚者となった陽皆に恋してしまった男性客の物語。長く連れ添った夫を亡くした叔母いっこを、函館から宝塚に呼び寄せて同居を始める物語り。いつも明るい次女・春日の恋愛物語。常連客の受験生や、娘夫婦との二世帯同居を望む夫婦の物語。

 

著者はまだラブストーリーを中心に書いていたデビュー5年目に、阪急不動産から「どこにでもありそうな、でも心あたたまる物語を書いてほしい」との依頼を受け、読者から募ったエピソードをベースとしてこの作品を書いたとのこと。はじめからハッピーエンドがお約束されている、まるで童話のようなストーリーが続くのには、このような理由があったのですね。同社のWEBサイトにアップされていたものが、2018年になって単行本となったのは、時代の要請なのでしょう。

 

2022/8