りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

奇跡の大地(ヤア・ジャシ)

奴隷貿易が盛んだった18世紀のゴールドコースト(現ガーナ)。イギリス人に協力するファンティ族と抵抗するアシャンティ族が対立を深める中で、互いに存在を知らないまま生き別れとなった異父姉妹。姉のエフィアはイギリス人の現地妻となる一方で、妹のエシは奴隷としてアメリカに売り飛ばされてしまいます。そして姉妹の子孫たちは2つの大陸でさまざまな運命に翻弄されていくのです。

 

ゴールドコーストに留まったエフィアの子孫たちが見舞われたのは、イギリスへの反乱、敗北、服従を重ねながらガーナとして独立するに至る歴史の大波。その一方で逃亡奴隷となったエシの子孫たちは、南北戦争公民権運動をくぐりぬけていきました。そして姉妹の末裔たちは、互いのルーツを知らぬまま21世紀のアメリカで再会を果たすのです。まるで祖先の姉妹から伝わった火と水の象徴が互いに引き合ったかのように・・。

 

現代版『ルーツ』と呼ばれることもある本書ですが、決定的な違いも感じ取れます。それぞれ7世代ずつ14人の主要人物が登場する4世紀に渡る壮大な物語は数多くの悲劇に彩られているものの、淡々とした口調で綴られているのです。その背景にあるのは、黒人奴隷の売買に関わった黒人支配層の罪悪感なのでしょうか。

 

1989年にガーナで生まれて幼少期に両親とともに渡米し、アメリカの大学で学んで作家となった著者の経歴は、エフィアの末裔であるマージョリーとほぼ同じです。大学時代にガーナに一時帰郷した際、祖先たちが歩んだ足跡に思いを馳せたマージョリーは、著者の分身なのでしょう。2016年に発刊された本書がデビュー作とのこと。第2作の「Transcendent Kingdom」は、ガーナからアメリカに移住した家族の物語とのことですから、やはり自伝的な要素を多分に含んでいるのでしょう。翻訳されたら読んでみたいのですが。

 

2023/10