りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

自転しながら公転する(山本文緒)

物語はベトナムでの結婚式の場面から始まります。ベトナム人の恋人と結婚する日本人女性は、固い決意を持って異国に移り住むことを決めたのです。一転して綴られていくのは、東京近郊のショッピングモールのアパレル店の契約社員として働いている女性の日常風景。母親の看病のために東京での仕事を辞めて実家に戻ってきた32歳の都は、さまざまなことに悩んでいます。

 

それらは全て都を取り巻く人々との関係のようです。病気で気力を失ってしまった母親との関係。母親を気遣いを求める父親との関係。職場で起こったハラスメントや正社員との関係。それぞれに結婚、出産、仕事の道を歩んでいる元同級生との関係。とりわけ両親も本人も「結婚」を意識せざるをえない年齢になって、付き合い始めた寿司職人の貫一との関係は深刻です。

 

養護施設に入っている父親の面倒を見たり、震災ボランティアに没頭した過去があったりと、決して悪い人でないのですが、なかなか本音を打ち明けてくれません。頭はいいのに中卒の元ヤンキーで、寿司店の閉店によって失業してしまったとなると、結婚などとは言い出せないのでしょう。彼もまた様々なことから逃げているようです。そんな都に、年下ながら裕福なベトナム人ビジネスマンのニャンが接近してくるのですが・・。

 

著者は明言していませんが、自分の人生を「自転」とするなら、「公転」とは次の世代に繋いでいくことなのかもしれません。生きるとは、無限の宇宙の中で疾走していくようなものなのでしょう。何かに拘れば拘るほど、自転も公転もスムーズさを失っていくようです。都は思うのです。「幸せに拘れば拘るほど、人は寛容さを失っていく」と。ラストの大きな仕掛けには驚かされますが、そこを別にしても読む価値のある作品でした。、「ひたむきに頑張る」だけが正解ではないと感じさせてもらえます。

 

2022/10