りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008/9 囚人のジレンマ(リチャード・パワーズ)

今月の1位とした『囚人のジレンマ』は、わかりにくい構造を持った小説でした。でもその分、全てが明らかになったときの感動は大きくなったように思えます。

「世界の神話シリーズ」の一冊である『永遠を背負う男』は次点としましたが、30年の構想で全100冊、「世界中の作家が世界中の神話を現代に蘇らせる」との壮大な企画には興味があります。人類がはじめて創り出した物語である神話には、全ての物語の原型が含まれているのですから。

宮部みゆきさんの「江戸もの短編集」を3冊続けて読んで、彼女のすごさを再認識。ただし3冊とも再読ですので、選外としておきます。

1.囚人のジレンマ (リチャード・パワーズ)
原因不明の病気にかかりながらも、精神的に家族を支配し続ける父親と、父親をうとましく思いながらも、父親の本心を理解しようと努める息子たち。戦時中に強制収容された日系アメリカ人を救おうとするウォルト・ディズニー。いったいこれは何の話なのでしょう。物語の構造は終盤になって理解できます。第二次大戦下のアメリカで起きた「陰の歴史」から世界を救うのは、ディズニーがミッキーやティンカーベルに込めた理想を、そのままに受け止めた少年だったのです・・。

2.ただマイヨ・ジョーヌのためでなく (ランス・アームストロング)
アルプスやピレネーを含む4000キロものコースを、23日間で走破する過酷な自転車レースのツール・ド・フランスで、前人未到の7連覇を成し遂げた著者は、生存率が20%にも満たない末期ガンから生還した男でした。この本は自転車レースのドラマにとどまらず、再起を果たした著者の自己発見の物語です。

3.キングとジョーカー (ピーター・ディキンスン)
架空の英国王室を舞台にして、王室にいたずらをしかけるジョーカーは誰なのか。はじめは他愛のないいたずらだったものが、ついには殺人事件にまでエスカレートし、英国王室を揺るがしかねないスキャンダルが絡んでいるとなっては問題はシリアス。13歳の悩める王女ルイーズを主人公にして、王室の「内側」と「外側」を描いた構成は素晴らしいものです。

4.クライマーズ・ハイ (横山秀夫)
御巣鷹山への日航機墜落事故を取材する地元新聞記者の意地は、かつて自殺した部下や、事故の前日に倒れた友人の家族らとの関わりの中で、生と死を通して、人間の生き方を問うことに変わっていきます。初心者が夢中のまま登頂に成功するクライマーズ・ハイは、覚めた瞬間に一歩も動けなくなってしまうので、実は怖いことだといいます。人生においても、当てはまることですね。

5.またの名をグレイス (マーガレット・アトウッド)
1843年に起きた殺人事件に題材を求めた作品です。カナダ史上最も悪名高いと言われる、当時16歳の少女だったグレイスは、本当に犯罪者だったのでしょうか。明快な答えを期待してはいけません、著者の狙いは、「聖女は悪女か」に二分された当時の女性観と社会のあり方に光を当てることだったのでしょうから。




2008/9/30