りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

警官の血(佐々木譲)

イメージ 1

宮部さんの楽園以来、久しぶりに、読み応えのある日本の長編小説を読んだ気がします。親子三代に渡って警察官となった孫が、祖父の事故死と父の殉職事件をめぐる謎を、ついに解き明かすまでの物語。

とはいえ物語の重点は、謎の解明をする「現代」ではなく、「過去」におかれているようです。時代を背景とした物語性は、圧倒的に「過去」のほうが高いんですね。

戦後すぐの昭和23年、上野署の巡査となり、今で言うホームレスやストリートチルドレンの摘発も仕事の一部でありながら、彼らに温かい目を向けることも忘れずに、市民と密着した「駐在さん」を目指した清二。彼は、管内で発生した男娼殺害事件と国鉄職員殺害事件に疑念を抱いて聞き込みをしていたのですが、駐在所に隣接する五重の塔が火災となった晩に跨線橋から不審な転落死を遂げてしまいます。

市民と触れ合い、子どもたちを訓導する父を見て育った息子の民雄もまた警察官となりますが、彼に与えられた任務は、公安警察の一員として、連合赤軍に潜入捜査することでした。生命の危険にさらされる潜入捜査に精神を病んだ民雄は、父の後を継いで「駐在さん」となり、生活も精神も安定しはじめますが、ある日、父が亡くなった晩の写真を見て動揺した結果、自殺するかのように拳銃を持って人質事件を起こした犯人に立ち向かい殉職してしまいます。

そして孫の和也の時代。三代に渡る「警官の血」とそれに伴う「正義感」を期待された和也は、とかく噂のある刑事の密偵を依頼されますが、彼の中で「正義とは何か?」という重い問いが膨らんでいきます。和也もまた、祖父が亡くなった晩の写真を見ることになるのですが・・。

物語の縦糸は「祖父の死」に絡む謎解きなのですが、横糸となっているのは「正義」の問題。祖父が、父が、孫がたどりついた「正義」の解釈はそれぞれに重いのですが、そんなテーマを自然に読ませるのは、それぞれの時代に於ける葛藤を丁寧に描いたデテイルの力でしょう。直木賞候補作となったこともうなずけます。

2008/10