りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ツリーハウス(角田光代)

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満州から引き揚げてきた祖父と祖母から始まる、敗戦、戦後の混乱期、朝鮮戦争、高度成長、六〇年安保、オーム事件などの「大きな物語」に翻弄されてきた、三世代の家族の物語。語り手である孫の良嗣が、自分の家族に対して抱いている違和感の正体とは、いったい何だったのでしょう。

きっかけは祖父の大往生でした。元気を失った祖母が「帰りたい」という先は、どこなのか。ひきこもりの叔父やスナック経営の叔母が自分勝手に暮らしているのは何故なのか。どうして親戚はいないのか。そして兄や妹が勝手に家を出ても、戻ってきても、誰も文句を言わないのは何故なのか。

祖母の「満洲への帰郷旅行」に同行した良嗣は、家族の歴史を理解し始めます。それは、満洲開拓団や徴兵から逃げ出した祖父と、戦前の日本から飛び出した祖父に始まる、壮絶な「逃亡」の歴史だったのです。第一世代が逃げ出したのは戦争に象徴される時代だったのに対し、父や叔父・叔母たちの第二世代が直面を避けたのは、高度成長に象徴されるなにものか。では、孫たちの第三世代は何から逃げているのか。

意識的な選択というより、どうしたらいいのかわからなくて逃げるような生き方をしているのは、三代共通ですね。しかし祖母は言うのです。「私たちと、あなたたちの『逃げる』は違う」と。「現代のあんたたちは、だらだらして却って自滅している」希望のない逃げ方だと言うのです。確かに今の日本で「ここではない別のどこか」を求めることは、たとえばイスラム国での戦闘を選ぶようなことに繋がりかねない危うさがありますね。

歴史的な重いテーマを扱いながら、最後は現代の個人の生き方に収斂させたのは、決して欠点ではなく、むしろ角田さんらしさを感じます。同じ「三代の歴史」を描きながら「マジック・リアリズム」の雰囲気をまとわせた桜庭さんの 赤朽葉家の伝説と同様に、「著者らしさ」を感じる作品になっているのです。

2014/12