りぼんの読書ノート

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テンペスト(池上永一)

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池上さんの小説の舞台には、やっぱり沖縄が一番似合いますね。19世紀、滅び行く琉球王朝を舞台にした、千年の眠りから醒めた龍たちが交合する中で生まれたという伝説の女性「真鶴(まづる)」の物語。

女性は公職につけないという伝統に反して、美少女・真鶴は、身分を宦官・孫寧温と偽り、校試を受けて主席で王府に入り、いきなり評定所筆者(事務職のトップ)の役を得ます。彼女が出会うのは、清国と薩摩藩の間で微妙なバランスを取りながら、洗練と文化の力で生き延びてきた琉球王朝の土台を根本から揺るがす出来事の連続でした。

時代の先を読む思考と鋭い論理の力で数々の難問を解決していく真鶴ですが、怪物的な清国の宦官・徐丁垓を殺害した罪で八重山に流刑となってしまいます。孫寧温としての姿に別れを告げ、絶世の美女・真鶴の姿で戻ってきたのはいいけれど、今度は王の側室にされてしまうハメに・・。おぉ~っ、この展開は後宮小説(酒見賢一)と張り合うのかっ!

ところが、ところが、ペリー来航という有史以来の難局を乗り切るために、孫寧温の能力を必要とした政府の期待に応えようとして、一人二役を演じなければならなくなり、王宮の表と裏を早変わりで行き来するドタバタを演じることになってしまいます。「正体がバレたら即破滅」という緊張の物語の中、琉球の伝統的な文化や宗教が時には優美に、時にはユーモラスに描かれます。真鶴を取り巻くキャラクターも多士済々。

ライバルの神童・朝薫や、真鶴が淡い恋心を抱く薩摩藩士・雅博はクソまじめだけど、妹と逆に女装した女形のダンサーとして宮廷に入る兄の詞勇や、側室仲間で真鶴の親友となる完璧お嬢様の真美那や、破天荒な逞しさが魅力の王姉・聞得大君(最高位の神女)や、したたかな女官の大勢頭部や恩戸など、皆、魅力たっぷり。(もっとハチャメチャな琉球のオバアにも登場して欲しいという感もありますが・・)

清国からも薩摩藩からも独立を保ち、ペリーをはじめとする列強の進出にも耐えた琉球王国は、明治政府の廃藩置県によって、一夜にして滅亡を迎えることになってしまいます。そのとき真鶴らの運命はどうなってしまったのか。琉球に何を残すことができたのか。池上小説のお約束通り、沖縄に対する思いが込められたラストは綺麗ですよ。一番ハッピーなのは、東京に渡って鹿鳴館の主となる真美那お譲様かもしれませんが(笑)。

2008/10