りぼんの読書ノート

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精霊の守り人(上橋菜穂子)

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和製ファンタジーとして、荻原規子さんの『勾玉シリーズ』と双璧と言われている作品ですが、なかなか手を出しにくかったのです。主人公が30歳の女性と聞いて読む気が起きました(笑)。

著者はアボリジニ研究を専門とする文化人類学者とのことでしたので、そちらのテイストも濃いかと思いましたが、本書を読んだ限りでは中国から日本にかけての伝承物語が基本となっている世界が構築されているとの印象です。

ヨゴ皇国の第二王子チャグムに宿った不思議なものを恐れて、王子を狙う一味から守って欲しいとの依頼を受けた女用心棒のバルサが、被征服民族の呪術師などの協力を得ながら不思議なものの正体を解き明かしていく物語。

出色なのは、被征服民族の伝承だけでは謎が解けないこと。征服民族によって曲げられてしまった歴史の中に潜んでいた真実のカケラもまた、必要なのです。より広い世界(地理的にも、次元的にも)を前にした時に、狭い世界での勝者と敗者という区分は意味を失っていくんですね。

もちろん、ベースとなる世界観のみでは、物語はおもしろくはなりません。登場人物のキャラクターも、人と人とが関わって紡ぎだされていくストーリーも大切です。チャグムの成長も、孤児だったバルサが人間らしさを取り戻していく過程も、良かったですね。このシリーズは10冊で完結しているとのことですが、もう少し読んでみようと思います。

2008/9