りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アルプス・プロヴァンスの小さな旅(秋本和彦)

イメージ 1

会社勤めを辞めて写真家となった著者が55歳の時、1993年に行ったバイク旅行は、スイス・アルプスとフランス・プロヴァンスを結んでいる全長812kmのローヌ河を、源泉のローヌ氷河から河口の地中海までたどる旅でした。

ローヌ河はサン・ゴダルト峠の西側に端を発していますが、同じ峠の東側から始まるのが北海に流れ込むライン川ですから、この峠は壮大な分水嶺なんですね。スイス国内を西進したローヌ河はレマン湖に流れ込み、さらにそこからフランスに入ってリヨンで大きく角度を変えて南進、プロヴァンスに向かいます。そして、アルルで2手に分かれて三角州地帯のカマルグを形成しながら、地中海に注ぎ入ります。

まず、スイス国内の小さな村が魅力的ですね。ゴムス谷がホテル王リッツの故郷であり、ヴァリス州がスイス傭兵を生み出したことからも、このあたりがスイスでも貧しく、観光と牧畜しか産業がなかったことがわかります。しかし、どこも美しい。この美しさは、「気の遠くなるような年月をかけて荒地を牧草地に変えていったことで生み出された」との新田次郎さんの感想は示唆に富んでいます。

レマン湖北岸にはバイロンの詩で有名になったシヨン城、ヘミングウェイら多くの文化人に愛されたモントルーチャップリンが晩年住んだヴヴェ、そして国際都市のジュネーブと、有名な町が続きますが、フランス・アルプスを離れて大都市リヨンに近づくあたりから様相が変わってきて大河の風格をたたえながら南下。

プロヴァンスに入って、ローマの円形劇場で有名なオランジュ法王庁があったアビニョン、ローヌを挟んでいがみ合うタラスコンとボケール、ローマ橋のポン・デユ・ガールを経て、ゴッホと美人の街アルル、宗教戦争で破壊された死者の町レ・ボー、陸に上がった港町のエーグ・モルト、河口の三角州を形成する二本のローヌに挟まれたカマルグと、最後まで魅力的な町のオンパレード。

実は本書を読んだのは、「プロヴァンスに行きたい」と思ったからなのです。アルプスとプロヴァンスの両方は無理だけれど、どちらかに行ってしまおうかな。

2012/4