りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

Op.ローズダスト(福井晴敏)

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亡国のイージス』の続編のようなストーリーですが、あちらのテーマが国を憂える海上自衛隊の反乱なら、こちらは防衛庁の「非公開の情報部隊」バージョン。

9.11テロで韓国の北朝鮮に対する「太陽政策」は頓挫し、対北朝鮮工作を行っていたチームは撤収に失敗。上層部の裏切りにより、チームの一員であった少女は死亡。亡くなった少女に思いを寄せていた少年が2人。4年の歳月の後、国家に絶望を感じた少年はテロリストとして、少女の死に責任を感じた少年はテロを阻止する側に立つ。

祖国に複雑な思いを抱くテロリストたちの真の狙いと、真の黒幕はなかなか姿を現しません。というより、それらが明らかになるまでが、面白いところ。全ての謎がはっきりしちゃったら、ただの戦闘アクションですからね。

テロリストの真の標的は、当時の工作を「売った」上層部なのか。それとも少女に死をもたらした軽率な行動を取った少年なのか。それとも単に某国の手先として軍事技術を入手することなのか。それとも・・。

「新しい言葉」というのが、物語のキーワード。「新しい理想を語るには、新しい言葉が必要」と、亡くなった少女は語っていたのです。愛国、忠節、民族・・・という、古い言葉で語られる体制。反米、護憲、非武装・・という、また別の古い言葉で語られる思想。それらを乗り越えるには、一人一人が、自分の言葉で、新しい理想を語っていかないといけません。

作者の抱いている危機感は『イージス』の時と変わりはないけれど、変革への主張はもっと明確に打ち出されたようです。極めて危うい道ではあるのですが・・。

2006/5