りぼんの読書ノート

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テロルの嵐(ゴードン・スティーヴンズ)

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後に『カーラのゲーム』を書く著者のデビュー作です。本書はいわば国際的謀略のチェスゲームのようなもので、数多くの人物が登場するのですが、主役級はPLO強硬派の心優しいテロリストのワリドでしょう。

陰謀を企てるテロリストの側には、IRA暫定派や西ドイツの過激派、アラブ産油国の大立者や野心から陰謀に加担していくようになるイギリス外務担当大臣ら。それに対するのは反テロリスト部隊を率いるSAS少佐や各国のテロ対策機関なのですが、こちらは少々影が薄い印象なのは否めません。しかし複雑な小説はやがて、ワリドとSASのエンダーソン少佐の対決に収斂していきます。

その中間にいて意外な役割を果たすのが、ソヴィエトを脱出してイスラエルに移住しようとする兄弟2組のユダヤ人一家という予想外の駒ということになります。先に移住した弟夫婦の息子は事故にあう寸前でワリドに助けられ、後から来る兄夫婦の一家はワリドが企てたハイジャック機に乗り合わせているのですから。しかも弟夫婦が入植地で与えられた家は、イスラエルに奪われたワリドの生家だという皮肉な巡りあわせ。

一連のテロのハイライトと思えたハイジャックは実は囮にすぎず、真の狙いはイギリスのトップを狙う立場にいる男をヒーローにして抱きこむことでした。モデルはピロヒューモ事件ですね。しかし、思わぬことから事件は急展開を見せていくのでした・・。

一見敗北したかのように見えるワリドですが、著者の意図は彼を勝者として描くことですね。混乱の中でワリドが、「敵」であるユダヤの少女を解放し、ユダヤの少年を守った行為こそが、後の平和交渉に繋がっていくのでしょうから。

2012/8