りぼんの読書ノート

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連環宇宙(ロバート・チャールズ・ウィルスン)

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時間封鎖』、『無限記憶』と続いた3部作の最終巻です。ついに驚愕のテクノロジーで人類に影響を及ぼした仮定体の意味が明らかになっていきます。

仮定体による時間封鎖を乗り越えて繁栄を続ける地球に、1万年後の未来に復活した人々による物語を綴る謎の少年が現れます。その少年オーリンとは何者で、彼を守ろうとするボース巡査と精神科医サンドラは何を読むことになるのでしょうか。

少年が綴る1万年後の物語には、第2巻の最後で仮定体に飲み込まれたターク・フィンドリーと仮定体と人類とのハーフともいえる少年アイザックが再登場します。2人が放り出された1万年後の世界は、12個の居住惑星を連結した連環世界となっていました。そこでは感情をリンクした人々の大脳皮質系連合と、理性をリンクした人々の大脳辺縁系連合が争っていたのですが、2人を救出した大脳皮質系連合は一種の宗教団体ですね。

彼らは神格化した仮定体との一体化を夢想し、荒廃して連絡の絶たれた地球への帰還を願っていたのです。まるでそこがパラダイスであるかのように思い込んで・・。彼らにとって仮定体に吸収されて1万年後に放出されたタークやアイザックらは、「選ばれた人」であり救世主のような存在となります。確かに仮定体はタークらの通過を許し、一同は地球にたどり着くのですが・・。

後になってアイザックは仮定体の本質を見抜くのですが、既に死滅した宇宙のパイオニア種族が遺した自動機械にすぎないというのは『2001年宇宙の旅』とも共通するものがありますし、新味はありませんね。人類にとって時には救世主であり、時には死神の役割を担う自動機械の意図は、宇宙的規模から見ると一貫しているのですが、この謎解きには少々裏切られた気もします。

ただ本書の面白さは、個人的レベルの冒険にあるようです。なぜ平凡な少年オーリンが1万年後の物語を綴るようになったのか。タークやアイザックのオーリンとの接点はどこにあったのか。それは「贖罪」の物語でもあったという結末には、小説としての完成度の高さを感じます。

2012/8