りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2006-12-28から1日間の記事一覧

五郎治殿御始末(浅田次郎)

武士という身分と職業が消えた、明治のはじめ。誇りをもって誠実に、不器用に、武士の時代に幕を引く男たち。「泣かせの浅田」真骨頂の、短編6作品。 浅田さん、幕末から明治が、よほど気に入ったみたいですね。「壬生義士伝」の後、「輪違屋糸里」、「憑神…

人生のちょっとした煩い(グレイス・ペイリー)

この本も村上春樹さんの訳というので手にとってみました。1950年代に出版された短編集です。サラッと読めてしまいますが、実は相当に難解な本かもしれません。 どの話も、平易な口調で「そういえばね・・」といった雰囲気で語られているのが、サラッと読…

世界の果てのビートルズ(ミカエル・ニエミ)

1960年代、北極圏に入るくらいのスウェーデンの北の果て、フィンランド国境近くのパヤラ村。男どもの職業といったら、木こりか、鉱夫か、猟師。力自慢を競い、身体中火ぶくれができるまで熱いサウナに耐え、ぶっ倒れてもまだ酒を飲み続けるのが、男らし…

サーカス団長の娘(ヨースタイン・ゴルデル)

幼い頃から、物語を考え出すのが好きだったペッテル。彼の頭からは、蜘蛛が糸を紡ぎだすように、次々と物語が生まれる。やがて、彼は、物語のネタを想像力の枯渇した作家に売り始めます。しかし、彼の紡ぎだした糸は、次第に彼自身を絡めとっていくのです。 …

現代ドイツ(三島憲一)

東西ドイツの統一から現在までの、政治と社会をめぐる議論を「現代ドイツ思想史」として、知的に再構築した著作です。 統一後にドイツで発生した「ナショナリズムへの回帰」は、外国人労働者や難民への差別と暴力、ネオナチ勢力の伸長、さらには、湾岸戦争、…

春になったら苺を摘みに(梨木香歩)

梨木さんが、学生時代をすごした英国の静かな街を再訪して、かつて師事した下宿の女主人・ウェスト夫人と再会した時のエピソードを中心としたエッセイ集。 異人種・異文化との共存を余儀なくされる生活をおくる中、「理解はできないが受け容れる」というウェ…

容疑者Χの献身(東野圭吾)

売れっ子作家の直木賞受賞作。天才的数学者でありながら、冴えない高校教師に甘んじている男が、密かに愛していた隣人の女性を守るためにトリックを仕組みます。 その女性、別れた元夫の暴力とたかりから自身と娘を守るため、はずみで殺人を犯してしまったの…

シブミ(トレヴェニアン)

タイトルの「シブミ」は日本語です。ヨーロッパを舞台にCIAと戦う「孤高の暗殺者」を主人公にしたアクション小説にしては、不思議なキーワード。 独露混血で上海生まれの主人公ニコライ・ヘルは、少年期に彼を引き取ってくれた日本軍の将軍から日本的精神…

コウノトリの道(ジャン=クリストフ・グランジェ)

『狼の帝国』がおもしろかったので、他の本も読んでみました。期待通り、全盛期のフォーサイス並の迫力ですよ。 秋にアフリカに渡り春にはヨーロッパに帰るはずのコウノトリが、なぜか今年はかなりの数、帰って来ませんでした。謎の鳥類研究家から依頼された…

奇跡も語る者がいなければ(ジョン・マグレガー)

1997年8月31日。ダイアナ元妃が亡くなった日に、イングランド北部の街では、もうひとつ別の悲劇が起きていました。その悲劇と、直後の「誰にも知られなかった奇跡」の物語。細かく描写される住民たちの一日と、3年後の出来事が交互に語られます。 悲…

風流冷飯伝(米村圭伍)

あの「退屈姫君シリーズ」を書いている著者のデビュー作です。本書には相当思い入れがあるようですね。「退屈姫君」の嫁ぎ先は、ここに登場する「時羽藩」なのですから。 「冷飯」とは、武家の次男・三男のことです。長男が早世するか婿養子にでも行かない限…

ローン・レンジャーとトント、天国で殴り合う(シャーマン・アレクシー)

ワシントン州スポーカン族のインディアン保留地。HUD(住宅開発局提供の安価な住宅)に住むインディアンに残されているものは、あまりにも少ない。アルコール、バスケットボール、ファンシーダンス。涙。揚げパン。物語と法螺話。壊れていく家族・・・。 …

世界のすべての七月(ティム・オブライエン)

訳者が「村上春樹さん」とのことで、読んでみました。1969年卒業生の31年ぶりの同窓会。一人一人のエピソードと、同窓会の様子が交互に進みます。 1969年。もちろんリアルタイムでは知らないけれど、激動の年。ベビーブーマーの大学生が、世界中で…

ムンクを追え!(エドワード・ドルニック)

1994年、ムンクの「叫び」が盗難にあいました。リレハンメルオリンピックの開会式当日の盗難であり、ノルウェー政府の威信は地に堕ちたそうです。本書は、3ヶ月後にロンドン警視庁特捜班の手によって「叫び」が取り戻されるまでを描いたノンフィクショ…

勝利(ディック・フランシス)

他の追随を許さない「競馬ミステリー」シリーズですが、何より、どの作品をとっても主人公の人格が素晴らしい。高潔で、正義感が強く、自立心にあふれ、強い意志を持つ。「女王陛下の騎手」でもあった著者が、競馬というスポーツに抱いている誇りが、ストレ…

円を創った男(渡辺房男)

幕末から明治にかけての日本経済史は奇跡の連続です。封建制から資本主義経済への転換を、これほど迅速に、最小限の混乱で成し遂げた事例は、ほかにありません。 藩籍奉還、廃藩置県、土地売買の解禁、地租改正、移転・職業選択・営業・契約の自由化などの施…

真田幸村(海音寺潮五郎)

いわゆる、歴史大河小説ですね。武田家の滅亡から、信長の死を経て秀吉が台頭するまでの間、南の徳川、東の北条、北の上杉に囲まれ、乱れに乱れていた甲州と信州で、策略を持って生き延びてきた真田家で若き真田幸村が成長していく様子を描いた物語。 こうい…

ママ、大変、うちにコヨーテがいるよ(エルモア・レナード)

イエローストーンで、コヨーテを見たことがあります。リスを丸かじりしている所に出くわして、怖かった。アメリカ西部では、人家の近くにもコヨーテがいるそうです。もともと、コヨーテの縄張りに人間が住み着いたわけですしね。 本書の主人公は、ハリウッド…

落語娘(永田俊也)

落語界に改革の新風を吹き込む若き名人・柿紅にあこがれて落語家をめざした香須美でしたが、内弟子には不採用。柿紅は「落語は男のもの」と確信する男尊女卑論者だったのです。 唯一、香須美を引き取ったのは、高座にもあがらない異端の師匠。正統派落語をめ…

しゃばけ(畠中恵)

江戸の薬種問屋の一人息子・一太郎が、殺人を目撃。どうやら薬屋を狙う殺人鬼が、江戸を徘徊しているようです。しかも殺人鬼の目的は「命を蘇らせる薬」を手に入れることで、それを一太郎が持っていると信じているらしい。 病弱な一太郎ですが、周囲に迷惑を…

信長の棺(加藤廣)

小泉総理も絶賛した、75歳の新人による歴史ミステリー。人生、まだまだこれからですね。 本能寺の変のあと、信長の遺体はどこに消えたのか。信長・秀吉に使えた歴史作家である太田牛一が、謎に挑みます。秀吉の意外な出自や、光秀謀反の影に垣間見える、秀…

沈黙のはてに(アラン・ストラットン)

南部アフリカのエイズ問題を、16歳の少女の視点から描いた小説。現実はここまで悲惨なのか・・。 鉱山の危険な仕事で、簡単に人命が失われる。仕事もなくすさんだ男たちは、女性に暴力を振るい、妻のわずかの収入を全て安酒に費やしてしまう。美人で人気者…

でも私は幽霊が怖い(佐藤亜紀)

去年一番の収穫は、佐藤亜紀という作家を知ったこと。余計な説明を一切はさまず、読者を突き放すかのような無駄のない文体に心を捉えられてしまいました。 この本は、佐藤さんが30代のはじめに書いたエッセイですが、読んでみた感想・・「この人とは友人に…

イン・ハー・シューズ(ジェニファー ウェイナー)

幼い頃から成績優秀。弁護士としてバリバリ仕事しているけれど、ルックスや体型、そして恋愛コンプレックスに悩む姉。幼い頃から容姿抜群で、男の子からは憧れの的。スターを夢見ているけど、学習障害があって定職にもつけない妹。 仕事を失いアパートを追い…

スキッピング・クリスマス(ジョン・グリシャム)

グリシャムといえば、「法律事務所」で颯爽とデビューして以来、法廷サスペンスの第一人者の地位をずっと保ってきていますが、最近では「ペインテッド・ハウス」といった純文学の傑作も書いたりして、芸風(?)の幅を広げているようです。 でも、彼の「ホー…

狼の帝国(ジャン=クリストフ・グランジェ)

実は、電車に置き忘れたのはこの本でした。あきらめて購入しました。文庫なのに1000円もする!もちろん、図書館に返却する前に、最後まで読み通し。 記憶障害に悩んでいたフランス高級官僚の妻のアンナは、覚えもないのに全面整形を受けていることに気づ…

夜のピクニック(恩田陸)

80キロを一昼夜かけて歩きとおす、高校恒例の「歩行祭」。 異母兄弟ながら同じ高校に通っている融(とおる)と貴子は、似通った雰囲気のせいか、関係をウワサされたりもするけど、お互いにわだかまりを感じ続けていて会話をしたこともない。高三の秋、最後…

センチメンタル・サバイバル(平安寿子)

フリーターの「るか」が、キャリアウーマンの叔母と同居する。何事にも反応して、自分の意見を主張しないと収まらない叔母と、何事にも反応しない「低反発マットレス」のような彼女。こんな二人の同居生活は、いったいどこに向かうのか。 でも、「るか」もし…

褐色の文豪(佐藤賢一)

18世紀フランスの文豪デュマを題材にした小説。ナポレオンの将軍にまで上り詰めながら、晩年を不遇にすごしたデュマの父親を描いた『黒い悪魔』の続編にあたります。 王政復古から、7月革命、2月革命を経て、ナポレオン3世の台頭と、めまぐるしく左右に…

ローマ人の物語14「キリストの勝利」(塩野七生)

毎年1冊、15年に渡って刊行されている大シリーズも、いよいよ最終巻に近づきました。終わって欲しくない! いよいよ辻邦生さんの小説でおなじみの、ユリアヌス帝の登場です。治世わずか19ヶ月にすぎない、若くして亡くなったユリアヌス帝が、どうしてこ…