りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夏の災厄(篠田節子)

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光を忌避するようになり幻の甘い香りを感じ取るようになる脳炎で、インドネシアの絶海の孤島が人知れず絶滅してから数年後、同じ奇病が東京郊外のニュータウンで発生します。その周辺では、不気味に光る貝が大発生し、さらにはキジ科の野鳥・コジュケイの大量死も。・・と、はじまると、「バイオハザード・パニック小説」のようだけど、ちょっと違う。本書で展開されるのは、閉鎖的で危機管理能力の欠けた行政システムの狭間で、否応なしに現場で対応を迫られる者たちの物語。

保健センターの職員や、看護婦や、町医者が、対応に追われながらも周辺で起きていることに疑問を持って、感染経路を追究していく様子はドラマチックだし、安っぽいバイオSFにありがちな、誰かの陰謀とかマッドサイエンティストの登場を排したリアリスティックな「事実」は物語の枠組みとして迫力あるけど、たぶん、それが主役じゃない。

むしろ、行政システムこそが主役なのかもしれません。その証拠に、謎が解明されても、原因を作り出してしまった者たちとの対決シーンもなく、根本的な問題だって解決されていないのですから。

危機を乗り越えたと思ったところで、まだ次の危機への萌芽が残されているというのは、ホラー映画のエンディングとして、よくある話。ですから本書も一種のホラー小説なのかもしれません。恐怖の根源にあるものはウィルスというよりも「行政システム」なのですが・・。

無責任に医療行政を責めるつもりはないけど、行政の責任が大きいことはわかります。薬害エイズ問題だって、克服された伝染病と思われていた「はしか」の流行だって、かなりの部分が「行政の結果」ですしね。せめて、ホラーを生み出さないようにして欲しいものです。

2007/6 広州のホテルにて


この本とは関係ないけど、広州で食べた巨大なまこの写真をつけておきます。
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