りぼんの読書ノート

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文盲(アゴタ・クリストフ)

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悪童日記の著者が、自らの半生を綴った自伝です。もともと自伝的な要素を含む『三部作』と著者の実際の半生がどう異なっているのか、興味深く読みました。昨日の巻末に収録されているの来日記念公演「母語と敵語」と重複する点があるのは、出版と公演のタイミング上、仕方なかったようです。

1935年にハンガリー西北端の村で生まれた著者の生活は、戦争と戦後のソ連駐留によって一変します。ロシア語が授業に組み込まれただけでなく、教師だった父親は政治犯として投獄され、本人は「孤児院と少年院を足して2で割ったような」寄宿舎に入ることになります。

高校卒業後すぐ19歳で教師と結婚し、21歳の時に起こったハンガリー動乱から逃れるために夫と生後4か月の娘を連れて亡命。この時に両親、兄弟を残してきたことが『三部作』で繰り返し綴られるモチーフになったいるのです。亡命後はスイスの時計工場で働きながらフランス語を学び、ついに51歳の時に『悪童日記』でデビュー。本書のタイトル『文盲』とは、この間の苦闘を指している実体験にほかなりません。

著者は本書で、「もし自分の国を離れなかったら、もっと貧しい人生になっていただろうが、こんなに孤独ではなく、こんなに心引き裂かれることもなかっただろう」と、さらに「どこにいようと、どんな言語であろうと、わたしはものを書いただろう」と語っています。半身を故国に残して引き裂かれた双子の物語を著したことは、著者にとって必然だったわけです。

2018/10