りぼんの読書ノート

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微睡みのセフィロト(冲方丁)

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マルドゥックシリーズシュピーゲルシリーズの原型となった、著者の原点ともいえる作品です。

通常人である「感覚者(サード)」に対して、超次元的能力を持つ「感応者(フォース)」が登場した世界。人類を二分した破滅的な戦乱が終結して17年、両者は対立感情を秘めて一触即発状態で共存し続けています。そんな中、世界政府準備委員会の要人である経済数学者が、超時限的な300億個の立方体へと「混断」される事件が発生。サードである捜査官パットは、フォース組織から派遣されてきた少女ラファエルとともに捜査を開始します。

パットとラファエルのイメージは、どうしても『マルドック』のボイルドとバロットと重なってしまいます。もっとも本書の視点人物として苦悩しているのはハードボイルド型のパットであり、少女ラファエルは完全に近い存在でありすぎて物語性に欠けているようです。

ともあれ、思念捜査、混断、分身、時間跳躍、再生などの異能力が展開されるバトルの描写は、既に完成の域に達していますね。やがて犯人の意図と、一見して反フォース思想の持ち主とおぼしき被害者を救おうとするラファエルらの意図がかみ合って、未来への展望を感じさせるエンディングへと導かれていきます。

本書において「世界連邦保安機構」に「マークエルフ」と、「人間狩猟機械」に「メンシェンイエーガー」とルビがふられていることに気付きました。初期において著者は、コードウェイナー・スミス人類補完機構の影響を受けていたのですね。

2018/10