りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

二つの伝説(ヨゼフ・シュクヴォレツキー)

著者は「プラハの春」崩壊後カナダに亡命して出版社を設立し、数百作のチェコ語の書籍を刊行し続けた作家です。同時代の作家であるボフミル・フラバルがチェコに留まって検閲や発禁処分に耐え続けたのとも、ミラン・クンデラがフランスに亡命してチェコ文化から離れてしまったのとも異なる生き方ですが、3人とも創作を続けたことは共通しています。本書は著者が愛するジャズにまつわる初期の中編小説2編と、亡命後のエッセイから成り立っています。

 

「レッド・ミュージック」

「レッド・ミュージック」とはテナーサックスを吹いていた著者が16歳の時に結成したバンドの名前です。その後ジャズはナチスからも共産党からも禁止され、ジャズ愛好家たちは哀しくも滑稽な闘いを続けることになるのです。著者にとって文学とは、永遠に管楽器を吹き続けることであり、取り戻せない青春について謳いあげることであり、亡命先においても母国について謳うことであるという決意も表明されています。

 

「エメケの伝説」

30歳のチェコ人編集者が保養所で出会った未亡人エメケは、売春婦が客にする打ち明け話のような過去を持つ28歳のハンガリー人女性でした。敬虔な信仰を有するエメケに対して愛情を抱いた編集者は生命の真実に触れかけたものの、それが実ることはありませんでした。やがて真実の輝きは次第に薄れ、記憶と化し、やがては無と化すのです。ロマン主義の極致ですね。

 

「バスサクソフォン

ドイツ人のジャズバンドが、ナチス占領下のチェコの小さな町にやってきました、初めて見たバスサクソフォンを吹かせてもらった18歳の少年はバンドに誘われ、ドイツ人高官たちの前でおとなしい音楽を演奏するのですが・・。ジャズマンたるもの「何があろうとも本物の芸術に忠実であれ」との原則を破ってはいけないのです。たとえその代償が悲惨な運命を招き寄せようとも。

 

2022/7