りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018/10 腐れ梅(澤田瞳子)

2010年にデビューしてから、早くも2度も直木賞候補となった澤田瞳子さんが一皮剥けた感じです。どれも昨年刊行された作品で、半歩遅れて読んでいる感じですが、宮部みゆきさんや、桐野夏生さんや、ル・カレさんの新作を抑えて今月の1位とするにふさわしい、意欲的な作品でした。母娘2代の京都生活が、作品の中に息づいています。


1.腐れ梅(澤田瞳子)
菅原道真公を祀る北野天満宮が起こった伝承を踏まえて、似非巫女、下級貴族、不遇な学士らが巡らした策謀を描いた、澤田瞳子版の「北野天神縁起」です。平安時代のビカレスクロマンにとどまらず、民衆が躍動し始める中世の息吹すら感じさせる作品でした。タイトルはもうちょっと何とかして欲しいと思うのですが・・。

 

2.虐殺器官(伊藤計劃)
34歳で夭折した著者による、「ゼロ年代SFベスト1」に選ばれたデビュー作です。近未来、なぜ後進国で内戦や虐殺が横行するようになっていたのか。それは誰がどのように仕組んだものなのか。「人間が備えている虐殺を司る器官を活性化させる虐殺文法」という発想は衝撃でした。しかもその飛んだ発想を、読者に無理なく受け入れさせる展開も素晴らしいのです。

 

3.この世の春(宮部みゆき)上巻  下巻
今でいう多重人格症を発症して隠居監禁の憂き目にあった元藩主の魂を、忠実な家老や、心優しく気丈な娘や、蘭学を学んだ医師らは、解放できるのでしょうか。やがて彼らは、過去から現在へと続いている深い恨みと陰謀の存在に気付いていきます。著者が長く綴ってきた、人間の悪意と怪異の物語を融合させた作品は、作家生活三十周年記念にふさわしい内容でした。

 

 

 

2018/10/30