りぼんの読書ノート

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腐れ梅(澤田瞳子)

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澤田瞳子版「北野天神縁起」ですね。平安時代中期、色を売って暮らしを立てている似非巫女の綾児は、似たような境遇ながら年増で不細工な阿鳥から、新興宗教を興して金儲けをしようと誘われます。40年ほど前に非業の死を遂げた菅原道真に目をつけ、往来で道真の霊に憑かれた真似をしても、あばら屋に御幣を祀っても賽銭すら集まらなかったのですが、やがて道真の孫という下級貴族の文時が訪ねてきます。

彼の目的は、叔父に奪われそうな菅原宗家の座を取り返すために、祖父の霊を利用しようというものでした。文時は不遇な学友・最鎮を誘って、道真と雷神を結びつける縁起をでっちあげさせたりするのですが、信仰の拡大に決定的な役割を果たしたのは、綾児の無謀な企てでした。彼女に熱を上げていた右大臣藤原師輔の家人を利用して、入内していた師輔の娘が天皇の息子を生むと伝えた託宣が、まぐれ当たりをしたのです。

スポンサーとなった師輔に北野に社殿を建てさせ、天神信仰をオフィシャルな宗教と認めさせるに至って、4人の企ては成功したかと思われたのですが、今度は主導権争いが発生。美貌の綾児は神社の筆頭巫女として、権力を存分にふるえるはずだったのですが・・。

伝承に登場する人物たちを生き生きと動かした、素晴らしい作品でした。今まで「立派な人」を描くことが多かった著者ですが、ビカレスクロマンのほうが向いているかもしれません。著者は「民衆を描くことが今後のテーマ」と語っていますが、終盤の綾児の行動からは中世の扉が開こうとしている兆しも感じられます。それにしても北野天神のトレードマークである「梅」が、綾児の病から来ているとは想像もできませんでした。もっと綺麗なタイトルのほうが読者受けするとは思うのですが。

2018/10