りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

失われた探険家(パトリック・マグラア)

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奇想コレクションの一冊ですが、この著者の作風は「ポストモダン・ゴシック」とでもいうのでしょうか。要するにホラー系であり、少々苦手なジャンル。19編も収録されていますので、印象に残った作品だけ紹介しておきます。

「天使」 腐りゆく天使というイメージは、夢枕獏さんが同じタイトルの作品を書いていますね。三島由紀夫さんの天人五衰のタイトルも同様のテーマです。

「失われた探険家」 庭先に現れた瀕死の探検家を発見した少女は、優しく残酷にもてなします。探険家の死を看取った少女の成長物語とも読める作品です。

「黒い手の呪い」 インドで奇妙な死病に罹った夫に対して、新婚の妻はどうふるまったのでしょう。やがて未亡人となった妻は、夫が死んだ日の出来事を生涯悔い続けることになるのです。

「血の病」 吸血鬼とは悪性貧血症を患う患者の集団? マラリアに罹患した探検家には、吸血鬼に襲われる危険はない?

「アーノルド・クロンベックの話」 処刑前の猟奇殺人者にインタビューする女性新聞記者に仕掛けられた罠とは? 『羊たちの沈黙』を思わせる作品です。

「串の一突き」 自殺した叔父の日記に登場する15インチのフロイトとは? 著者は、精神科医であったという父親に反発していたようです。

「マーミリオン」 アメリカ南部の朽ち果てた屋敷の歴史を調べる女性写真家は、かつてそこで行われた陰惨な愛憎劇を見出します。正統派ゴシック・ホラー的な作品です。

「監視」 不道徳な講師を監視する刑務官志望の学生は「信頼できない語り手」ですね。一人称の語り手が女性だとは最後まで気づきませんでした。

「吸血鬼クリーヴ あるいはゴシック風味の田園曲」 薬を服用中している語り手が娘の友だちを吸血鬼だと思い込むのですが、真実はどちらの側にあるのでしょう。ゴシック・ホラーのパロディのようでいて、実はそうでもないのかも?

他には、黒い翼を持つ神父と少年の寄宿舎での関係を綴った「アンブローズ・サイム」、悪癖を持つ手を切り落としただけではすまないオナニストの手」、蠅が語る物語なのか幻覚者の幻想なのは判然しない「蠱惑の聖餐」、死んで腐敗しつつあるのは自分だったという「悪臭」、現代的で皮肉なオルフェウス物語である「オマリーとシュウォーツ」など。

2013/10