りぼんの読書ノート

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草の花 俳風三麗花(三田完)

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高浜虚子門下の暮愁先生が主催する日暮里の句会で、昭和7年に出会った3人の女性たちの友情のはじまりを描いた俳風三麗花の続編は、3年後の昭和10年から始まります。

大学教授を父に持つ阿藤ちゑは、帝大助教授の妻となりますが流産してしまいます。東京女子医専を卒業した池内壽子は医師となって満鉄大連病院へと赴任。浅草芸者の松太郎は、六代目菊五郎の妾になっていました。

前作でも、満州国建国、白木屋火災、皇太子誕生、5・15事件、国連脱退という時代の流れが、彼女たちの生活に影を投げかけましたが、本巻では2・26事件が起こります。そして、満州で三麗花が再会する、満洲国皇帝・溥儀の御前句会がクライマックス。傀儡国家とはいえ、五族協和のスローガンにもまだ希望を感じることができた、日中戦争が始まる前のことでした。

最終章は戦後の昭和22年。それぞれが戦禍に呑まれ、もがきながらも生きながらえた三麗花が、「花衣」をまとって暮愁庵で再会を果たす場面では、読者は肩をなでおろすことでしょう。川島芳子甘粕正彦永井荷風が登場するのは、著者の読者サービスでしょうか。

ところで「三麗花」にはモデルがいるそうです。虚子に師事したという著者の父方の祖母と、祖母の俳句仲間だった芸者さん。そして俳句つながりではなかったものの女医であった著者の母方の祖母。歌物語という古来のスタイルを復活させるとともに、著者が幼い頃に耳にしていた明治生まれの女性たちの話し言葉を書き残したいという望みが、本書に結実しています。作中で紹介される多くの俳句をつくるだけでも大変なものです。

2014/6