りぼんの読書ノート

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当確師 十二歳の革命(真山仁)

プロの選挙参謀として支援した候補者の99%を当選させてきた聖達磨を主人公とする「当確師シリーズ」の第2弾です。今回、聖のもとに持ち込まれた依頼は、ポピュリストの現職総理大臣の岳見を落選させて欲しいというものでした。しかし候補者を当選させることと、特定候補を落選させることは似て非なるもの。勝てる候補者選びから始めなくてはならないのです。

 

そんな時、岳見総理が独断で選挙区内にある湖の畔に日米共同の研究所を作ろうとしているという噂が広まります。核エネルギーも絡むと噂される計画にいち早く反対の声を挙げたのは、「里山を守って欲しい」という12歳の少年、南方誉でした。グレタ・トゥーンベリを思わせる少年を愚弄した総理の人気は急落。この少年ならば選挙に勝てるかもしれないと判断したものの、もちろん誉には被選挙権などありません。聖は少年の母親・晴美に白羽の矢を立てるのですが・・。

 

総理の御用新聞をクビになった週刊誌記者や、フランス在住で美貌のセレブ環境活動家や、南方一族の祖父や父親や、総理のダメ息子や、総理に仕える秘書官親子らが絡む選挙戦は、どのように進むのでしょう。そもそも現職総理を引きずり落としたいとの依頼は、どこから出て来たものなのでしょう。そして現職総理に「勝てる」候補など見つけることができるのでしょうか。

 

政治の暗部に入り込んだ本書はトリッキーな展開を見せるのですが、著者の理想は「大義のためには犠牲を厭わない潔癖な政治家が増えれば日本は変わるかもしれない」という聖のひとことに要約されています。そして本書は、選挙と民主主義の意義を問い直し、若者の夢をどのようにして実現させるかという問題に切り込んでいくのです。そんな政治家のみならず、そのために露払いの役割を担う「当確師」にも登場して欲しいものですが、問われているのはすべての大人たちです。

 

2023/6