りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

人質オペラ(荒木源)

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イスラム過激派組織による日本人人質事件」に揺れる官邸を描いた政治ドラマです。

参院選を前にして、トルコで難民救援活動をしていた日本人女性がテロ組織の人質になったというニュースが飛び込んできます。多額の身代金を要求されたものの、テロに屈しないアメリカの方針に従うことが既定方針であり、官邸も外務省も極めて冷静。女性官房長官は、自己責任の世論を盛り上げる一方で、人質となった女性の身元を探らせます。

しかしここで、現職財務大臣のバカ息子が人質になるという新たな事件が発生。はじめは冷静な対応を取っていた官邸でしたが、参院選に影響しかねない大臣の弱みを握った母親と嫁の脅迫によって、方針が一変。しかし、こちらの事件には怪しい点がありそうです。

物語は、選挙での勝利を目指す首相、密かに総理の座を狙う女性官房長官、さらに外務省職員や公安警察らを中心に展開していきますが、現場の担当官を除いては、人質事件への対応よりも自分の利害を優先させていることは共通しています。このあたり、実際もそうなのでしょう。

G7における首相の不用意な発言や、大臣のバカ息子による意外な行動が、官邸を苦境に追い込んでいくのですが、それを救ったのは女性官房長官の非情な決断でした。要するに、人質を切り捨てたことが世間にわからなければよいということであり、確かにそれは功を奏するのですが、やはり彼女も大切なものを失ったようです。「一強」と呼ばれる首相のモデルは明らかですが、女性官房長官のキャラは「あの人」を思わせる作品でした。

2017/9