りぼんの読書ノート

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かばん屋の相続(池井戸潤)

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著者が銀行小説を書き始めてから、直木賞を受賞する頃までに著された短編小説が、6編収録されています。どの作品も主人公は、銀行員です。

「十年目のクリスマス」
資金繰りに行き詰った中小企業への追加融資の稟議を通せず、むざむざ倒産させてしまったことを苦に病んでいた銀行員が、10年後に元社長を見かけます。デパートで羽振り良さそうに振る舞う元社長の姿を不思議に思って帳簿を再調査し、あるからくりを見ぬいたのですが、彼は沈黙を守り続けることを選ぶのでした。

「セールストーク
融資を打ち切られた赤字続きの印刷会社は、どうして奇跡的な復活を遂げることができたのでしょう。調査に乗り出した融資担当者が、支店長の個人的な不正を暴き出します。この話は「花咲舞が黙ってない」でドラマ化されています。

「手形の行方」
銀行員が取引先から集金してきた手形は、なぜ失われてしまったのでしょう。その背景には、その銀行員に個人的な恨みを持つ女性の存在がありました。この話も「花咲舞が黙ってない」でドラマ化されました。

「芥のごとく」
わずか数日の日付の違いで手形の割引が認められなかったため、会社を大切に育ててきた女社長は、町金に手を出してしまいます。こうなってはもう、会社を救うことはできません。

「妻の元カレ」
若手銀行員の夫婦関係に踏み込んだ、ちょっと変わった作品です。就職氷河期を経験したロスジェネ世代にとって、銀行に就職できたことは「勝ち組」なのですが、そんなことは長い人生のスタートポイントにすぎません。まして男女関係においては、もっと大切なことがありそうです。

「かばん屋の相続」
怪しい遺言書を手にして家業を継ぎに乗り込んできた長男と、文句を言わずに店を明け渡した次男というと、モデルは一澤帆布のお家騒動ですね。そこに融資先として長年つきあってきた信金の人間が絡むのですが、著者が作り上げたストーリーは、もちろん実話とは異なります。傲慢な態度を取る長男が、元大手銀行員というのがポイントですね。

2017/9