りぼんの読書ノート

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チンギス紀 15(北方謙三)

チンギス率いるモンゴル軍が、西方の大国ホラズムに侵攻して半年。南方の古都ブハラを失ったホラズムは、新しい首都のサマルカンドも、包囲戦を耐え抜いていた国境の町オトラルも放棄。彼らの狙いは、モンゴル軍を西方に引き込み、国土全体を利用してモンゴル軍の疲弊を待って決戦を仕掛けることでした。しかし強固な物流ネットワークに支えられたモンゴルの兵站が切れることはありませんでした。ボオルチュによってアウラガから送り込まれた文官たちが、征服した都市の行政や徴税を効率的に行ったことで、モンゴル軍は後顧の憂いなく戦闘に専念できるのです。

 

ホラズムの皇子ジャラールッデーンによる起死回生策は、ホラズムの各軍が擁する精鋭遊撃部隊によるチンギス急襲でしたが、、ジャムカの息子マルガーシが属する皇子軍も、テルゲノが率いる遊軍も、女隊長の華蓮が率いるカンクリ族軍も、チンギス麾下騎馬隊の壁を破ることはできません。太后トルケンが旧都ウルゲンチを餌にしてまで仕掛けた大軍埋伏の罠ですら、ジョチ軍とチャガタイ軍の一部に被害を与えただけ。国王アラーウッデーンも傷つき、ホラズムが最後の一大決戦に全てを賭ける時が近づいてきたようです。

 

その一方で、ホラズム戦に駆り出された4人の息子たちによるチンギスの後継者争いも佳境に入ってきました。独力でシル河下流域を抑えた長男ジョチと、ムカリに代わって遊撃隊を率いた4男トルイがリードしているようですが、2男チャガタイと3男ウゲディを含めて、誰もチンギスには遠く及びません。新たに1万ずつの騎馬隊を率いるようになった4人とも、まだ横一線というところなのでしょう。そもそもチンギスには後継者という概念などなさそうなのですが。

 

モンゴル帝国の基礎である物流は、耶律楚材、ヤルダム、チェスラスらの若い世代によって担われていきます。中央アジアのタュビアンや、南宋潮州のトーリオら、モンゴル外の人材も交えたネットワークは、国家の枠組みを超えていくのでしょう。いや物流ネットワークこそが、国家の枠組みを破壊してしまうのかもしれません。かつて楊令が夢見た未来が近づいているのかもしれません。

 

2023/6