りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

チンギス紀 12(北方謙三)

草原の覇者となったモンゴルは、急速に拡大しています。昔と比べると格段に大きくなったものの、少数精鋭主義を貫くモンゴル軍は、四方の敵国に対応しきれるのでしょうか。しかしはじめに東方の大国・金が屈します。半年に渡る攻囲に耐えかねた金は燕京を放棄して、河南の開封に遷都。黄河と長江の間の狭い地域のみに押し込まれた金の命運は尽きかけています。北方の平定も済み、残るは河北でゲリラ戦を続ける完顔遠理将軍のみ。

 

南方の西夏に攻め入ったスブタイの戦闘は長期化しています。攻め入るたびに山岳地帯に逃げ込む西夏軍を深追いすることなく自制を続けているスブタイは、ジェルメやクビライ・ノヤンが一線を引いた今では、ジェベと並ぶ大将軍へと成長したようです。北方では既にモンゴルの勢力下にあった謙謙州が完全な臣従を決意。若い陳高練は、モンゴルの使者となったチンギスの孫・ヤルダム、モンゴル兵站部隊を率いるチェスラス、金国の兵站を担っていた耶律楚材、カシュガルで商いを学んでいたタビュアンともに、大国となったモンゴルに物流網を敷く役割を担っていくようです。かつて楊令が思い描いた国の形は、若い彼らに引き継がれていくのでしょう。

 

しかしその一方では、旧世代の退場も始まりました。ダイルとヤクは、西遼の攻撃にさらされた西方の拠点・鎮海城を守る闘いの中で戦死。バイカルの森に隠棲していた元メルキト族長のトクトアはひっそりと亡くなっていました。洞窟を継いだアインガは、そこを訪ねて来たジャムカの息子マルガーシとホラズム王子ジェラールッディーンに、かつての草原の闘いの記憶を伝えます。南方の潮州で、妻ラシャーンとともに商館を開いていた元タイチウト氏族長のタルグダイも亡くなり、息子同様にぞだてられたトーリオが後を継ぎました。商船隊を率いて南方へと向かうトーリオが。モンゴルの物流を担う若者たちと出会う日も近そうです。

 

2023/3