りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

マジック・フォー・ビギナーズ(ケリー・リンク)

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『空中スキップ』のジュディ・バドニッツや『燃えるスカートの少女』のエイミー・ベンダーや『いちばんここに似合う人』のミランダ・ジュライなど、21世紀アメリカにおいて、ファンタジーともSFとのホラーとも分類できない奇妙な文学の潮流が起こっていますが、本書の著者はその先頭ランナーともいえる存在です。 

 

「妖精のハンドバック」 

祖母のハンドバッグには、まるごと妖精の国が入っているというのです。それを相続するよう言われていた孫娘は、もちろん大嘘に決まっていると思っていたのですが・・。 

 

「ザ・ホルトラク 

国境近くのコンビニに来る客は、単なる通過者か、たくさんの犬の霊に取り憑かれている動物保護センターの女性か、道の向かいの崖の下からやってくるゾンビばかり。住み込みで働いていた少年はそこから脱出しようと、本物の犬と幽霊犬でいっぱいになっている女性の車を追いかけます。 

 

「石の動物」 

長い通勤時間に耐える覚悟で郊外の一軒家を買った家族でしたが、家の中のものが次々と何者かに憑かれていってしまうのです。電気製品や家具だけでなく、家族たちまでもが・・。ウサギが憑いたのかもしれないのですが、かなり意味不明な作品です。 

 

「猫の皮」 

仇敵の魔法使いに毒殺された魔女が、残った少年に復讐を言い残します。少年は魔女の復讐と名乗る喋る猫の指図を受け、猫の皮で作った服を身につけた姿で魔法使いの家に向かうのですが・・。世の中には魔女も猫も存在せず、猫皮の服に身を包んだ人間がいづだけだそうです。これも相当に意味不明。 

 

「マジック・フォー・ビギナーズ」 

なぜか田舎の電話ボックスを相続した少年が、そこに電話をかけてみたところ、受話器を取ったのは、奇想天外な連続テレビドラマの主人公ながら殺害されてしまったフォックスでした。重要な任務を依頼された少年は、フォックスの生き返りの手助けをしたのでしょうか。現実とドラマの境界線が揺らいでいきます。 

 

「しばしの沈黙」 

地下室でカードをしながらビールを飲んでいる冴えない中年男たちが、テレクラに電話をしてお話をせがみます。「悪魔とチアリーダー」という不思議な物語の世界では、時間が逆に進んでいるなのですが、それは男たちに幸福をもたらすのでしょうか。そもそも逆回転世界におけるハッピーエンドとは、どのようなことなのでしょうか。 

 

他には、大砲と結婚の奇妙な関係が問答方式で綴られる「大砲」、深夜に見知らぬホームパーティに忍び込んだ青年が女の子と不思議な会話を交わす「いくつかのゾンビ不足事態対応策」、死者と結婚して子供まで作った生者が離婚を試みる「大いなる離婚」が収録されています。どの作品を読んでも、頭がウニになる感覚を味わえるはず! 

 

2020/9