りぼんの読書ノート

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こうしてお前は彼女にフラれる(ジュノ・ディアス)

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オスカー・ワオの短く凄まじい人生の語り手であった、オスカーの友人ユニオールが本書の主人公的な存在ですが、彼には著者自身の人生が投影されているようです。

このユニオールがとんでもない人物なのです。米国に移民したドミニカ人の息子という貧しい境遇から大学に進学し、今ではボストンの大学教授にもなっているのに、いつもフラれてばかり。しかも、その原因はすべて浮気というのですから。欲望、疑惑、嫉妬、嘘、嫌悪、感傷、孤独、喧嘩、偏見、差別、貧困などのネガティブな言葉が、本書の中でイヤというほど飛び交います。、

高校生のときに女性教師から誘惑されてヤリまくり(ミス・ロラ)、学生時代にも(フラカ)、社会人になってからも(アルマ)、十分おとなになって相手の親から気に入られていても(太陽と月と星々)、どうしても浮気をしてしまうのです。40歳近くなっても、心の底から惚れて婚約した相手とつきあっていた6年の間に50人もの相手と浮気をしたのがバレて愛想を尽かされ、元カノを忘れられずに落ち込んでいるのに女子学生とつきあってフラれたりして成長していないのです浮気者のための恋愛入門)

結局のところ彼は、他人と親密な関係を築けない人物なのです。大切な関係を失うことを怖れるあまり、自分で壊してしまうような人物なのです。彼がそうなってしまっや原因があちこちに散りばめられているというのが、本書を貫くテーマなのでしょう。

憧れの存在で超えられない壁でありながら、若くして病気で亡くなった兄・ラファの女性関係も、そのひとつ。自らどん底に堕ちていくような女性とつきあって捨てたり(ニルダ)、迫り来る死を自覚しながら自分勝手にわけのわからない女と結婚してしまったり(プラの信条)。単身でアメリカに移民して、最低限の基盤を築こうとしていた父親もまた、妻子を捨てたかのように浮気をしていました(もう一つの人生を、もう一度)。しかも父親は、アメリカに呼び寄せた妻子に対して専制君主のようにふるまって、家族の人生を無茶苦茶にしていくのです(インビエルノ)

著者は、デビュー作の短編集ハイウェイとゴミ溜め)』もユニオールの人生の一部と語っていますので、最終的には全ての作品が重なり合って「ユニオール=著者自身」の人生を形作っていくことになるのでしょう。おそろしく寡作である著者が、いつになったら長い長い著作の全体像を明らかにできるのか、想像もつかないのですが。

2014/1