りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ホテルローヤル(桜木紫乃)

イメージ 1

道東の湿原を背にして建てられた同名のラブホテルが実家だったという著者による、ホテルを舞台に織り成す7編の連作短編は、2013年上半期の直木賞受賞作です。例によって、閉塞感の漂う土地に暮らす不甲斐ないダメンズたちが多く登場しますが、女性たちのたくましさが読後感を救っています。

「シャッターチャンス」 元アイスホッケー選手の恋人から、廃墟になったラブホテルでのヌード撮影を依頼された女性。自分の挫折に都合のいい理由をつけて、冴えない虚栄心を剥き出しにする男に対して、女の心は冷えていきます。

「本日開店」 寺の存続のため、檀家の男性たちに体を提供してお布施をもらっている住職の妻。今までは老人たちに奉仕してきたようなものだったのに、代替わりした檀家の若い男性に抱かれて女性の心は揺らぎます。ホテルローヤルの社長・田中大吉が「本日開店」と言って亡くなり、骨壺の引き取り手もないというエピソードが挿入されています。

「えっち屋」 ホテルの最後を看取ることになったのは、社長が愛人に生ませた娘でした。心中事件のあと客足がとだえたホテルを閉める日に、売れ残ったアダルト玩具を引き取りにきた恐妻家の男性を誘うのですが・・。

「バブルバス」 苦しい生活のため狭いアパートで暮らす夫婦。住職の予約ミスで法事がキャンセルされて浮いた5000円で、妻は働きづめの夫をホテルに誘います。お互いもう若くないけれど、ちょっとした贅沢感を味わうことができました。

「せんせぇ」 妻が結婚前から不倫をしていることに気づいた高校教師は、両親とも家から出て行ってしまった教え子と同じ列車に乗り合わせます。帰る場所を失った2人は、釧路へと向かうのですが・・。この2人が心中事件を起こしたのですね。

「星を見ていた」 ホテルローヤルの清掃係をしている60歳の女性は、働かない年下の夫を養っているようなもの。2人の息子と1人の娘は中学を卒業して家を出て、どこでどうしているかもわかりません。次男から働いて稼いだというお金が送られてきて喜んだ次の日、次男らしき男が殺人犯の容疑者として逮捕されたというニュースが流れます。

「ギフト」 自分を小馬鹿にする妻の実家にひと泡吹かせ、愛人のるり子にもいい暮らしをさせ、社長と呼ばれて気分よく暮らしたいという素朴な野望を実現すべく、看板屋の田中大吉がラブホテルの経営を決意します。しかし、家族の反応は冷たいものでした。もちろん既に読者には、ホテルの行く末はわかっています。

本書の「主人公」はホテルローヤルそのものですね。そこで肌を合わせた後に心を通じさせた者たちや、心を離れさせていった者たちが演じたドラマを見守っていた、ホテルの「生涯」が語られているのです。

2014/1