りぼんの読書ノート

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名もなき人たちのテーブル(マイケル・オンダーチェ)

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2014年の1冊めは、スリランカに生まれたカナダの詩人による、少年のイニシエーション物語です。

おそらく著者の分身である11歳の少年マイナが経験した、故国スリランカから母が待つイギリスへの3週間の船旅。それは、少年を大人へと変貌させる旅となりました。2等船客の少年があてがわれた食堂の席は、「Cat's Table」と呼ばれる船長から遠く離れた末席でした。しかし、「面白いこと、有意義なことは、たいてい、何の権力もない場所でひっそりと起こるものなの」なのです。

すぐに仲良くなった同じ年頃の2人の男の子。病弱で物静かなラマディンと、暴れん坊で活発なカシウスは、船から降りて離れ離れになってしまったものの、同じ体験を共有しあった者として、互いにずっと意識し続ける存在になります。

落ち目のピアニストのマザッパ、植物学者のダニエルズ、無口な仕立屋のグネケセラ、船の解体工だったネヴィル、文学者のフォンセカ、たくさんの鳩を連れているミス・ラスケティら、同席の個性豊かな大人たちは、少年たちに人生の機微を伝えます。

そこに、旅芸人のハイデラバード、耳の不自由な少女アスンタ、護送中の囚人ニーマイヤー、不治の病にかかった大富豪、怪しい男爵、さらにはマイナが淡い恋心を抱いた年上の従妹エミリらが絡んで、船の上で次々と起こる事件は、少年たちの脳裏に刻み込まれていくのです。男爵の窃盗、大富豪の急死、秘密護送官の行方不明、囚人の逃亡あるいは死亡・・。

本書は、若くして死んだラマディンの妹マッシと結婚したもののほどなく別れたマイナが、画家として成功したカシウスとの再会を求めて書いた物語です。後にマイナが解明した真実も多く含まれており、謎解きのような側面を併せ持っています。人生を凝縮したかのような眩い体験は、少年を成長させたのみならず、その後の人生にまで影響を与え続けたということなのでしょう。

大ヒット作となったイギリス人の患者と同様に、静謐ながら印象的な作品となっています。

2014/1