りぼんの読書ノート

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ベイカー街の女たち(ミシェル・バークビイ)

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「ベイカー街221B」といえば誰もが知っているホームズの住所であり、一時はワトソンも同居していました。しかしそこにもうひとり住んでいたことは忘れられがちです。それはもちろんハドソン夫人。風変わりな下宿人を献身的に世話し、依頼人や来客を2階まで案内し続けた女性です。しかし彼女が得意なのは料理だけではありませんでした。長年ホームズと接し続けたことで、推理能力も身に着けていたのです。

 

本書は、ホームズに依頼を断わられた女性の窮状を救ってあげたいと思ったハドスン夫人が、親友になったワトソン夫人のメアリーとともに難事件を解決に導く物語。しかも彼女は単なる安楽椅子探偵ではなく、危険でいかがわしいロンドンの下町や波止場にも乗り込んでいく行動派なのです。とはいえ当時のロンドンは、切り裂きジャックも横行していた闇の世界。素人の女性2人だけでは不安ですね。日頃ハドスン夫人に世話になっているイレギュラーズこと少年探偵団が、彼女たちを手助けします。さらにはパステーシュでホームズの恋人として描かれることが多いアイリーン・アドラーも登場。

 

本書の事件の依頼人は、身に覚えのない情事を「暴露する」と脅す手紙に怯える女性。19世紀末のイギリスにおいても、女性には財産権や親権すら満足に認められておらず、離婚しようものなら路頭に迷うはめになりかねません。夫に妻の貞操を疑わせる強請屋の存在は、女性たちの悪夢なのです。しかも夫にとっても不名誉な事態であるために公言できず、まさにやりたい放題。著名な女性も罠に墜とした悪辣な犯人に、素人の2人の女性は立ち向かえるのでしょうか。

 

原典のエピソードと矛盾しない範囲で、ハドスン夫人の来歴に触れ、原典の脇役たちも生き生きと活躍させた本書は、コナン・ドイル財団によって「ホームズ・シリーズ」へのパスティーシュとして公式に認定されているとのこと。ホームズが「実はフェミニストでいい人」として描かれすぎているようにも思えますが、ホームズ・ファンもそうでない人も十分楽しめる作品に仕上がっています。

 

2021/9