りぼんの読書ノート

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抱く女(桐野夏生)

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時代は1972年。主人公の直子は20歳の大学生というから、1951年生まれの著者と同じ世代です。直子が感じた閉塞感や憤りは、著者自身の思いでもあったはずです。

 

授業にも身は入らず、70年安保で敗北した大学闘争も終わりが見え、「抱かれる女から抱く女へ」というスローガンで始まったウーマンリブにも違和感を覚える直子は、雀荘やジャズ喫茶にたむろする無気力な日々を送っています。テルアビブ空港乱射事件や浅間山荘事件は同時進行形で起こっており、挫折した若者たちの間には死の匂いが濃密に溢れているようです。全てに投げやりになった直子は、「死は最強」という価値観をどのようにして乗り越えていくのでしょう。

 

物語後半で起こった2つの出来事が直子の変化を示唆して物語は終わりますが、若者の、とりわけ若い女性の生きづらさは、現代においても乗り越えられていません。男性視点からの「女性の性の商品化」も、女性視点からの「ふしだらな女批判」も、ネット社会の中でむしろ激しくなっているのですから。

 

著者は本書の後に、連合赤軍事件を女性兵士の視点から総括した『夜の谷を行く』を著わしています。両書ともに1970年代はじめの「ひりつくような時代感覚」を乗り越えてきた著者が、同世代の読者のみならず、現代の若者たちに向けて発信した作品であると思えるのです。

 

2019/7