りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

うどんキツネつきの(高山羽根子)

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本書のタイトル作品が2009年に第1回創元SF短編賞を受賞したことも、2020年には『首里の馬』で芥川賞を受賞した作家ということも知ってはいましたが、このタイトルに引いてしまっていました。1月にEテレで放送された「第2回世界SF作家会議」で「愛は人類にとっての脆弱性ではないか」との発言を聞いて、ようやく読む気が起きたのです。結果は・・読む価値ありの素晴らしい作品でした。

 

「うどんキツネつきの」

うどんとは「Unknown Dog Of Nobody」の頭文字のこと。パチンコ屋の屋上で拾ってきた犬そっくりの生き物を15年間育てた3姉妹の物語。「うどん」と名付けたその生き物は登場せず、ライカ犬のようだとか、口から泡を吹く様子が狐憑きのようだとかの描写が断片的になされるのみ。どう考えても可愛くなどないのですが、なぜ人は役にも立たない生き物を育てるのかという理由に至る結末が素晴らしい。その中には彼女たちが育てたり世話したりした蟹、フクロウ、養育、介護、老犬なども含まれるのです。

 

「シキ零レイ零 ミドリ荘」

敷金礼金ゼロのおんぼろアパートに住む変わった人たちが、大家の孫である小学4年生のミドリの視点から描かれます。宇宙に行った話をするおっちゃん、木食い虫の食い跡に古代文字を読み取る青年、ネット用語でしかはなさないひきこもり、ベトナムから介護の勉強に来ている女学生、妻子持ちの男性を追って来日したまま居ついた中国人のおばちゃん。みどりは母親から放置されている少年キー坊と一緒に不思議な物体を見るのですが、それが何かは表現できません。コミュニケーションのあり方が問われているようです。

 

「母のいる島」

この作品が一番ストレートで楽しめました。16人めの娘を産もうとして重体となった母のため、久しぶりに故郷の島に戻った3女が、島に潜むテロリストと戦います。それぞれ人間離れした能力の持ち主である姉妹たちや母の正体は明かされませんが、母の目的は何だったのでしょうか。

 

「おやすみラジオ」

ネットで見かけた子供の日記を読んだ女性主人公は、近所にいるらしい日記の書き手を探し始めます。しかし彼女は、様々な情報に踊らされる大勢の中のひとりでしかないようです。それは人の善意を利用するための仕掛けなのでしょうか。ネットの情報が、陸地が近いことを知らせる鳩の鳴き声に例えられ、謎めいた物語は洪水と方舟の幻影に着地していきます。

 

「巨きなものの還る場所」

東日本大震災を背景にして、青森のねぶたと出雲の国引きが結びつけられ、神話的で巨大なものの到来と何処へかの帰還が幻視されます。青森県立美術館の収蔵品である巨大なシャガールの絵画、巨大な馬とオシラサマ伝説、京都博覧会に出品された後にドイツで破棄された学天即ロボットのエピソードを含めて、人ではない巨大な何かに繋がろうとするミームの存在を感じさせる物語です。

 

2021/4