りぼんの読書ノート

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小説フランス革命5 王の逃亡(佐藤賢一)

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1791年春。聖職者民事基本法を巡ってフランスの協会が大分裂(シスマ)に陥る中、王室存続を図りながら革命を指導してきたミラボーの病死によって、議会工作の手段を失ったルイ16世は、ついに国外逃亡を決意します。

真夜中の宮廷脱出。夜道を進む馬車。自ら御者となって馬の手綱を操るフェルセン伯爵。緊張の極限にあって顔面蒼白となりながらも、愛児たちを抱くマリー・アントワネット。国王一家が国境の町ヴァレンヌまでたどり着きながら、最後の瞬間に正体を見破られて脱出を阻止されたこの事件こそ、言わずと知れた『ベルバラ』のクライマックス。

しかし・・『ベルバラ』とは違って、実際のフェルセンは頼りなかったようです。段取りが悪い。道に迷う。そして時間の遅れが国王一家にとって致命傷になるんです。醜男のミラボーを英雄的に描いた佐藤さんは、頼りない貴公子はお嫌いなのかしら?

この事件を契機にして、革命議会は立憲君主制から共和制へ、ついには王の処刑へと大きく舵を切り、欧州諸国には反革命戦争を促がすことになったと学んだものですが、実際にはその後もかなりの紆余曲折があったようです。ジャコバン・クラブで大勢力を率いる三頭派は、事実を曲げて「王の逃亡」ではなく「誘拐未遂」と見なして事態の収拾をはかろうとするのです。その背後にあったのは、革命の継続を望まないブルジョワ勢力の意向にほかなりません。

「しかし、それでは正義はどこにある?」カミーユ・デムーランの扇動によって、パリに帰還する国王一家を沈黙で迎えた民衆と、議会で主導権を握るブルジョワ勢力の利害の不一致が見え始めてきました。右傾化が進む議会で、左派の孤塁を守るかのようなロベスピエールの奮闘は続きます。

ルイ16世が自分の意志で行動し始めたことが気になります。史実を知る私たちには、それが最悪の結果をもたらすことは見えているのですが・・。

2010/12