りぼんの読書ノート

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日はまた昇る(ヘミングウェイ)

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第一次大戦のイタリア戦線で重傷を負ったヘミングウェイが年上の看護婦と恋に落ちた実話は、後に『武器よさらば』として結実しますが、長編第一作は戦後のヨーロッパで過ごした享楽的で自堕落な生活から題材を得た本書です。 

 

主人公は、戦争中の負傷で性的不能者となってしまったアメリカ人の新聞特派員ジェイク・バーンズ。魅惑的なイギリス人女性ブレット・アシュリーと出会って愛するようになりますが、彼の欲望には出口がありません。しかもブレットは奔放で恋多き女なのです。それは戦争で恋人を失った反動であることがほのめかされていますが、当然ブレットは嫉妬に苦しむのです。 

 

友人のロバートやジムやマイクらとパリで、未来への希望を失いながらも享楽的に暮らしていたジェイクらが、スペインのパンプローナで行われるサン・フェルミン祭に向かうことで物語が動き始めます。ブレットは常に一行の中心にいるのですが、彼女は若い闘牛士ロメロに惹かれます。闘牛士が生死を賭ける緊張感の中で自制心と誇りを有しているさまに惹かれたわけですが、それは著者自身の反映ですね。しかしブレットのロメロの恋は悲劇で終わらなくてはならないのでした。 

 

主な登場人物にはそれぞれモデルがいるのですが、気にする必要はないでしょう。大文豪の処女作にふさわしい、粗削りながらも無駄のない、余計な説明を限界まで剥ぎ取った作品です。何より本書は、その時代を感じさせてくれる一方で、時代性に縛られてはいないのです。 

 

2020/2