りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

愛のゆくえ(リチャード・ブローティガン)

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人生の敗北者たちが自作の著書を持ち込んでくる風変わりな図書館で、ただひとりのスタッフとして24時間勤務している主人公の男性は31歳。もう3年も図書館の外に出たことはありません。なんとなく、村上春樹さんの世界の終りを思わせるプロットですが、主人公を外界に向かわせるものは、沸騰点に達する内面的な希求ではなく、ある夜訪れた絶世の美女でした。

その女性ヴァイダは「プレイボーイ誌から抜け出したような完璧な容姿」を持っているものの、常に官能的な災厄をもたらす自分の身体を憎んでいました。なぜか主人公に興味を惹かれたヴァイダは、図書館で一緒に暮らし始めるのですが、やがて妊娠。2人は堕胎のために図書館の外へ出て、ティファナへと向かいます。そういえば、本書のタイトルは「abortion(堕胎)」でした。

さまざまな解釈ができる作品です。主人公が35人目か36人目の図書館スタッフである点が、当時のアメリカ大統領の人数と同数であることから、この図書館をアメリカという国家に例える向きもあるのですが、1966年という時期にアメリカの「外界」ではベトナム戦争が激化していたことと、どう関連付ければ良いのか見当がつきません。

とはいえ、本書に政治的な解釈を施すことは、著者の本意ではないのでしょう。この図書館に、ブローディガンという青年が「アメリカに関する本」を数冊持ち込んでいるというエピソードを思うと、「女性を愛したが故に安住の地を追われた話」くらいの理解で良いのかもしれません。たぶん誤読でしょうが。

2018/7