りぼんの読書ノート

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波止場浪漫(諸田玲子)

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主人公の「波止場のおけんちゃん」は、実在の人物です。幕末から明治にかけての清水港の大親分・次郎長の養女となり、次郎長と妻のおちょうを看取ることになった女性。本書は、彼女が20歳前だった明治20年代と、40歳をすぎた大正初期を交互に行き来します。

次郎長が晩年営んだ船宿「末広」のオープンで始まる明治期の物語で綴られるのは、次郎長が清水に招いた若い西洋医・植木との恋、次郎長の庶子でありながら厄介者だった桜井初四朗が起こすトラブル、次郎長の死。そして、けんが生涯独身を通すきっかけとなった事件が起こります。

一方で、けんが「末広」を売却して終わることになる大正期の物語で綴られるのは、20数年ぶりの植木との再会によって燃え上がった恋心、おちょうの死。そして、次郎長夫妻の跡を継いだけんが、苦しい生活の中でも社会貢献の視点を持ち続け、いつの世でも変わらず忍苦を強いられる社会的弱者に寄りそうように暮らし続けた姿が描かれます。

この時代は戦争の時代でもありました。明治期には日清戦争が起こり、日露戦争をはさんで、大正期には第一次世界大戦が起こっています。「おけんちゃん」が清水港の人々に愛された背景として、世相と市井の人々の暮らしぶりも丁寧に描かれています。さらに、漱石、子規、一葉、晶子らの文学も、彼女の恋に色を添えてくれました。

著者は次郎長の姪(後に養女)の末裔であり、これまでも清水一家に関係した小説を数冊書いてきました。本書には、著者の直接の先祖である女性も登場していますよ。

2015/12